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パトラッシュが駆ける!

小噺「逃げる」 

2018年10月10日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

「おい連助、お前、人の悪口を、言いふらしているようだな」
「大家さん、ふらすなんてことは、してません」
「わしのことを『えせ通人ぶってる』と、
謗(そし)ったそうじゃないか」
「軽ーく喋っただけです。それも二か所だけです」
「何処だ」
「湯屋と床山です」
「それじゃあ、火の見櫓の天辺から、世間に向かって、
叫んでるようなもんだ」
「ここだけの話だぞって、皆に、念押ししておきやした」
「口さがない奴らめが、なんで此処だけで、済むものか」

「御厨(みくりや)町の方には、言ってません」
「当たり前だ。あすこは寺町、床山なんぞ、
ありゃあしねえ」
「ちげえねえ。坊主にゃ、結う髪も、ねえもんね」
「笑ってる場合か。だいたい、わしをこき下ろして、
何の得がある」
「いえね、大家さんが、あんまり物知りを、
鼻にかけるもんでね」
「鼻にかけてるわけではない。お前たちのことを思い、
物事の道理を、説いておるのだ」
「えへへ、そりゃ、ありがてえこってすがね。
ただちょっと……」
「ちょっと何だ?」
「長げえんですよ、その道理ってやつが」
「じゃあ、二割方、縮めようか?」
「もうちょっと」
「三割か?」
「まだまだ」
「五割?」
「もうちょっと」
「しまいにゃ、なくなってしまうじゃないか」
「えへへ、それがいい」

「何を抜かす。ところで、お前の言う
『えせ通人ぶる』ってえのは、ありゃ、何だ」
「だって、本物の通人には、見えねえもんで」
「それを言うなら『通人ぶる』でいい。
いいか『えせ』と『ぶる』は、真正ではないという意味で、
同じ趣旨だ」
「二つ重なると、どうなるんで?」
「通人でないことを装う。つまり、通人だってことになる」
「そりゃ、困る」
「どうあっても、わしを『えせ通人』にしたいのか」
「いえ、その『ぶる』のを、止めてもれーてぇだけなんで」

「わしの説くのは、古今の名言金言だ。
それの何処が『ぶる』だ? 何処が『えせ』だ?」
「えへへ」
「言って見ろ」
「ごめんなすって」
「おい、逃げるのか?尻尾を巻きおって」
「急な、腹痛(はらいた)でござんす」
「大方、安い刺身でも、食ったんだろ」
「いーえ、悪い奴に出くわして、泡を食いました」

「しようのない奴め。厠に逃げ込み、心張棒をかけおった」
「えへへ、ざまみやがれ。もう顔を見ないで済むぜ」
「出て来い、連助」

「大家さん、二百年後なら、これを、何て言うんですかね?」
「そうさなあ……『ブロックする』だな。それから、
引き篭もる奴を指して『ニート』なんて言葉も流行ってる」
「へへへ、二百年後の連中と来たら、ろくなもんじゃないな」
「お前だって、ニートじゃないか」
「もう、追っかけるのは、止めて下さい」
「どうして?」
「ニートを追う者、一兎を得ずって言うでしょ」
「口の減らない奴め。こうなったら、わしは、
一日ここを動かないぞ。幸い、ヒマは、売るほどにある」

「おいおい、雪隠詰めかよ。ねえ、大家さん、いい加減に
堪忍しておくんなさいよー」
「悪かったと、認めるんだな」
「へい。逃げ込んだのが便所だけに、うんが悪かった」   



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パトラッシュさん

漫歩さん、
プロには程遠いです。
落語は好きです。
毎月、何処かしらへ、落語を聞きに行っております。

散文にはまとまり難い時に、小噺形式を利用させてもらっています。

2018/10/11 11:12:31

落語は世相学

漫歩さん

プロの台本が書けますね。

ー 好きこそ ものの 上手なれ ー

これだけの噺を書くまでには、相当投資さされたたとでしょう。

2018/10/11 09:08:33

落語好きです

パトラッシュさん

猫守さん、
お読み頂きまして、ありがとうございます。
筋で行くか、くすぐりで行くか、小噺といえども、と言うか、小噺だからこそ、難しいです。

2018/10/10 18:19:27

止むを得ざる国粋主義者です

パトラッシュさん

シシーマニアさん、
私は、外国語が出来ないので、スペイン巡礼の旅なんか、とても無理です。
その分、国内旅行と、そして、国文学の方へ(はったりで)力を注いでおります。
たまに洋食もいいですが、私は、和食なしでは、生きて行けません。

2018/10/10 18:15:46

ニートを追う者、一兎を得ず

猫守さん

いやあ、お上手です。落語にはこれまでもいっぱい学びましたが、重い内容。勉強になります。(^.^)

ウケを狙うか、中身にするか、、私は中身のほうを頂きますね。
有り難うございます。また読ませてください。( ´∀` )

2018/10/10 16:22:12

母国語

シシーマニアさん

やはり、言葉が通じるのは良いですね。

一緒に笑えますから・・。

まぁ、スペインの村を歩いて、お店の看板を見ながら、色々想像するのも楽しくはありました。

飛行機の中で、「カフェ?」「テ?」と言われて、紅茶はテ、か。と可笑しくもなりました。

全て、安全が確保されて居てこそ、ですね。

2018/10/10 10:55:23

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