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パトラッシュが駆ける!

旅路の友は 

2018年10月06日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

旅に出て、人に会う。
と言っても、それは、見ず知らずの他人であり、
たまたま同じ道を、辿っていたに過ぎない。
立ち止まり、しばし、言葉を交わす。
今日は、何処から来て、何処まで行くか……
何と言う宿に泊まるか……
なんてことを、語り合う。

何となく、ウマが合い、その後の行程を、共にしたりもする。
さらには、同じ宿に、泊まることもある。
こうなると、親しさは、さらに増す。
家族を語り、仕事を語るなどし、その人となりが徐々に、
明らかになる。

旅は旅でも、単なる観光地巡りだと、こうはならない。
それが、困難な旅であれば、あるほど、
そこで会う旅人同士は、親しくなる。
例えば、冬山である。
そこでは、相互扶助が求められる。
危急の際は、助け、助けられる、可能性がある。
だから余計に、出会った者が、懐かしいのであろう。

私はかつて、遍路旅に出て、四国を一周した。
もちろん、歩いてである。
その過程で、多くの旅人に出会った。
同じ目的を持っている人々だ。
すぐに親しくなった。

旅を終えた、七年後の今も、付き合いの続いている者が、
何人か居る。
年賀状だけの者も居る一方で、時に会って、
酒を酌み交わす相手も居る。
これは、歩いての遍路旅が、いかに難儀であったかを、
物語っている。
車に乗り、快適な旅をやっていたら、こう言うことは、
決して起こらなかったに違いない。

 * * *

遍路旅を、共にした者には、奇妙な連帯感が生まれる。
とは言うものの、その縁は、堅固でも不離でもない。
ほどなく、切れてしまう例もある。
住所を知らせ合い、旅が終ったら、また会いましょうと、
約束したにも拘らずである。
「お店を訪ねて行きます」
「きっとですよ。待っていますから」
別れに臨み、握手して約束したのに、
とうとう訪ねて来なかった人が居る。

私の著書を、メモに記された、住所に送ったが、
宛先不明で、送り返された例もある。
「転居先」の付箋があり、そこに再度、送り直して見た。
しかし、それもまた、送り返されて来た。

単なる偶然とも思えない。
旅の縁は、旅路の中のみに限定し、
日常の生活にまでは、引き延ばさない。
持ち込まない。
と彼が、割り切っていたと、考えられなくもない。
ちょっとさびしいが、それは人それぞれであり、
仕方ないのであろう。

 * * *

大坂、富田林警察署を脱走した、樋田容疑者が逮捕された。
所は山口県。
彼は、自転車で旅をし、その地に至ったと思われる。

同行者が居たようだ。
仮にこれを、Aとする。
容疑者から、同行をもちかけられたと、
Aは供述しているらしい。
その目論見は、よくわかる。
逃避行を擬装するには、同行者が居るに、越したことはない。
世間から浴びる、視線だって、二分されるであろうから。

Aは、自転車で、日本全国を巡っていたという。
それは困難な旅だ。
その難行を、共にしようとする者が居たとして、
これに親近感を抱かぬはずはない。

その相手が、逃亡犯とは……
Aは、気付かなかった。
と警察も、見ているやに、新聞が伝えている。

随分と、暢気な奴だなあ……
と私は思っている。
野宿を重ね、新聞もテレビも、見なかったかもしれない。
しかし、これだけ世上を騒がせている事件だ。
その風聞くらい、例えば、買い物をするところ、
飯を食うところで、耳にしないわけはなかろう。

そして、何日も行を共にする中で、
同行者の人物像くらい、互いにわかるはずだ。
何処に住んでいるか、家族は居るのか、
仕事は何をしていたか……
話に出ない方がおかしい。
そして、嗜好、性癖、知力、財力の程まで、
おおよそのことは、わかるものだ。
それらについての、両者に隔たりが大きいと、
旅を共にするのが、難しいことになる。
俗にいう「釣り合わぬは、不縁のもと」である。

以下は、実際にあった話である。
殺人を犯した者が、捕縛を逃れ、遍路姿に身をやつし、
四国を巡っていた。
逃亡者にとって、遍路の白装束は、格好の隠れ蓑であったようだ。
まさか……
人々は疑わなかったであろう。
それどころか、時に「お接待」と称する、
喜捨に預かったりもしたであろう。

私は、樋田容疑者の行方が、杳としてわからない時、
ふと思ったものだ。
遍路道なら、その身を隠しおおせるかも……と。
公園で、野宿をしていても、誰も怪しまない。
それどころか、食料の差し入れに預かったりもする。
それが、四国の遍路道である。

もっとも、前述の殺人犯とて、結局は捕まっている。
その捕まった理由と言うのが、振るっている。
ある時、テレビの取材を受け、彼はうかうかと応じてしまった。
その放映を見た、関係者が通報し、敢え無く御用になった。
事件から、歳月が経っている。
もう捕まるまいとの、油断が、彼にあったと思われる。

 * * *

「家庭に問題を抱えているな……」
遍路旅で同行し、その後、音信不通になった者について、
私が直感したところである。
彼は、多くを語らなかった。
家族の不和は、言葉の端々から、私が察しただけである。

「もしかしたら、脛に傷持つ身ではないか……」
音信不通となった、もう一人についても、私は訝しんでいた。
快活さの裏にある、翳りのようなものが、
気になって仕方なかった。
酒を飲まなかった。
本人は、飲めないと言ったが、私にはそれが、
体質上の問題ではなく、自戒に思えて仕方なかった。

人を色眼鏡で見てはいけない。
憶測で、決め付けてもいけない。
しかしながら、私の中に、消し難い猜疑が残っている。
平穏に、人生を過して来た者ではあるまい……という、
これは一つの「勘」である。

私がもしも、樋田容疑者の同行者であったなら……
もしやと疑いつつも、情において忍び難く、
通報は出来なかっただろうな……
なんてことを、自らの経験に照らし、考えている。



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かわうその里すさき

パトラッシュさん

山すみれさん、よく覚えています。
食料を買ったりしましたから。

逃走犯は、人の意表を突くのが、得意だったようです。
まさか……
多くの人が、疑わなかったでしょうから。

これを書いているうちに、また、須崎に行ってみたくなりました。
鍋焼きラーメンを食べに……

2018/10/07 19:16:02

一合一会

山すみれさん

我が道の駅



まさか^^?でしたね。


菊月や遍路に変装捕まりし

2018/10/07 14:36:39

遍路を利用する者、悪用する者

パトラッシュさん

漫歩さん、
ご友人の経験は、私のそれと重なります。
その連帯感は、とても、初対面同士のそれとは、思えないくらいです。
ちょっと、特殊な世界ですね。
それを、ちゃっかり利用する者も、居るということです。

2018/10/06 19:55:57

連帯感と安らぎ

漫歩さん

私と同期入社で同期リタイヤした友人が、その年に「染みついた組織人間からの完全離脱」を目指して遍路に出ました。
戻って来た彼の道中話と感想は、
パトさんの書かれたものと近いものでした。
彼の口から、連帯感という言葉が屡々出たことを思い出しています。

2018/10/06 14:17:26

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