メニュー

最新の記事

一覧を見る>>

テーマ

カレンダー

月別

パトラッシュが駆ける!

小噺「十三里半」 

2018年09月24日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

「連助よ、お前また、女房に逃げられたんだって?」
「いえ、大家さん、そうじゃないんで。
あっしの方から、三おり半をくれてやったんで」

「それを言うなら、みくだり半だろ。で、喧嘩の原因は何だ?」
「売り言葉に、買い言葉ってえやつで」
「しょうがない奴め。大方酔って、くだを巻いたんだろ」
「いえ、巻きません。ただ、ちょっとだけ、踏ん付けましたが」

「何を?」
「顔の辺りを」
「バカだねえ、お前は。そこに女房が寝ているのも、気付かないのか」
「いえ、あっしは、そこに、猪が寝そべってると、こう勘違いしましてね」

「何で、長屋に、猪が出る」
「それがね、話をすると、長いんですがね。
おとつい、音吉と一緒に、森田座で、五段目を見ましてね」
「忠臣蔵、山崎街道の場だな」
「勘平が、猪を撃つでしょ」
「おうとも。誤って、定九郎に当ってしまうがな」

「へまだよねぇ、猟師としちゃあ。あっしだったら、打ち損じるもんじゃねえ」
「お前、鉄砲なんぞ、打ったことがあるのか」
「もしあったらの話です」
「で、何で踏ん付けた」

「大家さん、猪の急所は、何処だと思います?」
「………」
「鼻ですよ、鼻」
「………」
「あの鼻の穴さえ、塞いじまえば、もう奴らは身動き出来ない」

「よく知ってるな」
「風邪ひいて、鼻づまりにでもなると、やつら、もう、からきし意気地がねえ」
「………」
「そこでねえ、鼻の穴に、懐紙を千切って突っ込んで……」
「おいおい、無体なことを、するんじゃない」
「お前さん、何をするんだいって、女房が急に、目を覚ましましてね。
その騒いだ隙に、あっと思ったら、踏んでたんで」
「馬鹿だねえー。そりゃ、お前が悪い」

「それっからと言うもの、布団と布団の間に、枕屏風を立てやがってね」
「それを『シャットアウト』と言うんだ。二百年後の、言葉ではな」
「大家さん、そんな先の世の中まで、知ってるんで……」
「わしの目は、千里眼だよ」
「じゃあ、その千里眼で、見ておくんなさい。女房のやつ、帰る気は、
あるでしょうかね?」

「未れん者めが。そんなもん、自分で、確かめて来い。実家は、御厨(みくりや)町の、蓮行寺下だろ」
「おめおめと、頭を下げには、行かれねえ」
「手土産に、十三屋(とみや)の櫛でも、買ってけ。女は、そういうものに、
弱いんだから」
「いや、どうせなら、十三里半にします」
「どうして?」
「女房は、亥年ですから、芋には、目がねえもんで」



拍手する


コメントをするにはログインが必要です

芋の名産地

パトラッシュさん

漫歩さん、
川越は、江戸から十三里あったそうです。
「栗よりうまい、十三里」とは、ここから来ているようです。

2018/09/24 17:12:08

連助め只じゃ置かねえ!

漫歩さん

連助の女房は私と同類ですので、苦笑して拍手しました。
私も芋は大好物です。(笑)

2018/09/24 16:30:35

PR





上部へ