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パトラッシュが駆ける!

山荘の変人 

2016年07月23日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

「先日、電話したんだけど、通じないんだ。
今は使われておりませんて」
「すみません、携帯を換えたもんで」
「こりゃ、何かあったかと、心配になってね。
それで、固定電話を探してみたんだ。
うん、104で調べてもらった」
「それはそれは、お手数をかけました」
「いや、無事ならいい。安心した。
ところで、今信州に来てるんだけど、泊まりに来ませんか?」
「行きますよ。行きましょう」
「八月上旬まで居るから」
「善は急げです。来週行きます」
「相変わらず、せっかちだな。じゃあ待ってる。
来る日が決まったら、電話を下さい」

坐間先輩は、関西人のくせに、縁もゆかりもない信州に、
山荘を持っている。
八ヶ岳の山麓である。
毎年、夏になると、はるばるやって来て、長逗留する。
その時に、関東在住の友人知人に「来ないか」と声をかける。
私もその一人だ。
声がかかれば、私は断らない。
少々の雑事は、蹴飛ばしてでも、出かけて行く。
それが三年続いていた。

電話がかかるのは、決まって、残暑の頃であった。
九月初めだから、初秋と言ってもいい。
私は、八月の末辺りから、電話を心待ちするように、なっていた。
しかし昨年は、様子が違った。
九月が過ぎ、十月の声を聞いても、連絡がなかった。

こういう時は、誰もが、思いを巡らすであろう。
相手の身に、何かあったのではなかろうかと。
先輩は既に、傘寿に達している。
何が起きても、不思議のない歳だ。
諸行無常、生者必滅なんて言葉が、浮かんでは消えた。

もう一つ、考えたことがある。
今流行の、断捨離ということがある。
物ばかりではない。
人との付き合いだって、それに含むことがある。

先輩とは、五年前に、四国の遍路旅で会い、同宿の一夜を、
語り明かした。
妙に話が合った。
互いに、本を出版するなどして、共通する話題があったからだ。
文学、出版、そしてその出版物の販路拡大、
図書館への売り込み……
教えられることが多々あった。
だからこそ、私は彼を、先輩と呼んでいる。
しかしながら一方で、私にあって、先輩にない知識だって、
ないわけではない。
それを、縷々説明したこともある。
だから、お互い様であり、私は対等の関係だと思っている。

一方でまた、思想信条の面では、対立するところもあった。
先輩は、アベノミクスを評価し、延いては、
首相のその政治姿勢をも、支持している。
それに対し私は、徹頭徹尾、安倍氏が嫌いだ。
その思想も、政治手法も、すべてが嫌いだ。
その祖父にまで遡り、嫌いだ。
そしてまた、この私が、原発反対のデモに、
加わっていると知りつつ、先輩は、現代の生活に、
原発が欠かせないと主張して憚らない。

相容れないところがある。
しかし、それらを争点に、口角泡を飛ばしたことはない。
意見の相違はそのままに、同調出来る範囲で付き合う。
それが、大人のやり方だと思っていた。
しかし、それは私の思いであって、
先輩がどう思っていたかはわからない。
相違を理由に、遠ざかって行かれたとしたら、それはもう、
やむを得ないことだ。

元々が、紙のように薄い縁なのである。
何時音信が途絶えたって、それは仕方のないことだ。
しかし、私の方から、それを断つようなことは、致すまい。
それだけは心に期していた。

どうやら先輩、私との、断絶を望んでいたわけでは、ないようだ。
では、一年のブランクは、何だったのか。
それは、山荘に行ってみればわかる。
それは案外に、拍子抜けするような、些事であるかもしれない。

 * * *

「シーツは要らないでんすか?」
「今回は要らない。枕カバーも要らない。
近くのホテルに泊まることになったから」
「何でホテルなの?……せっかく山荘に行くのに……」
「歳なんだろうな先輩も。人を招く準備や後始末が、
面倒になって来たらしい」
「夜は別々なのね。昼間はどうするの?」
「山荘で過ごす。ホテルはただ、寝るだけ」
「変なの」
確かに変だ。
妻の言うのがもっともだ。

「変」と言うことになれば、その字の、あれほど似合う人はいない。
そのやること為すことが、世の常の人と違っている。
単身、レンタカーを借り、ノルウェイの田舎道を走る。
最北端の北岬を目指し、一日に数百キロを走破したりする。
アイルランドの僻地を、安宿に泊まりながら、
転々と旅したりする。
旅行記を出版するや、それを車に積み、
各地の図書館に蔵書してもらうため、日本全国を駆け巡ったりする。

長い髪をオールバックにし、鼻下に髭を蓄えたところは、
その長身と相まって、英国紳士に見られなくもない。
人物画の対象として、格好のモデルというよりない。
活字ながら、私も人を描くことが好きだ。
このモデルを見逃すわけには行かない。

「あーたも変人だもんね」
変人同士、磁石のように引き合うのだと、妻は言っている。
その通りかもしれない。
毒を食らわば、皿までということがある。
私が、その招請を断るとしたら、それはもう、あの世が近い証拠だ。
毒だって、食えるうちが華さと、一人嘯いている。



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パトラッシュさん

ウイールマンさん

はい了解です。

早速、異人のカテゴリーに、吾喰さんには内緒でこっそりに投票します。

あの方は、このコメント欄は、もう忘れて見ないと思いますので、きっとばれないでしょう。

2016/07/28 08:04:24

意味は

パトラッシュさん

ウィールマンさん、

変人=一風変わった人
奇人=   〃
異人=普通とは違った人

三者ほぼ同一です。
但し、異人には=優れた人 という意味もあります。
吾喰楽さんには、これがよろしいかと思います。

(私には、その嗅覚というものが、尊敬に値するものですから)(笑)

2016/07/27 16:55:24

投票

ウイールマンさん

すみません。

まだ時差が残ってるようで、投票時間に又間に合いませんでした。


よってアメリカ時間での時差投票です。

勿論吾喰楽さんに、是非清き一票を投じたいのです。
3年以上も毎日欠かさず、ブログを書くことなど。

並の人間には、絶対出来ない事です。

しかしながら、奇人、変人、異人のどの項目に投票したらいいのか迷います。

アドバイスをお願いできるでしょうか?

2016/07/25 12:10:05

ご人徳

パトラッシュさん

喜美さん、
居ますか?変人。
喜美さんの周辺にも?

喜美さんは、誰からも愛される人。
そのおおらかさが、変人をも常人に変えてしまうかもしれません。

私の友人知人は、各地に散在してはおりますけれど、
会う機会はごく少ないです。
喜美さんみたいに、多くの人が訪れてくれる。
これは、なかなかあることではないのです。
ご人徳、というべきでしょう。
大事になさって下さい。

2016/07/24 07:14:46

ネタ

パトラッシュさん

彩々さん、
お心にかけて頂いて、恐縮です。

人との出会いには、運命を感じますね。
出会ったからには、大事にしよう……
これが私のポリシーです。

というわけで、明日から三日間、八ヶ岳の山麓で過ごして来ます。

これでまた、「山荘の変人」の、続編が書けるかもしれません。(笑)

2016/07/24 07:06:28

変人

喜美さん

変人良くいますよ 私も意外に何方とも仲良しになれ(その方の良い所だけ見る事にしたの)その方が大勢の友達もできるし賢くなるみたいです(いまさらならないけれど)パトさんは本当に日本中に友達がいらっしゃるのね 羨ましいわ

2016/07/24 06:52:57

何故か安堵しました

彩々さん

パトさん、おはよございます。

私もパトさんBlogでこの先輩の方の事、心に
残っていました。

>先輩とは、五年前に、四国の遍路旅で会い、同宿の一夜を、
語り明かした。

パトさん、これは友人関係をつなぐ運命的な出会いと
言えますね。
今回の再会も、人生に組み込まれた時間であり、
関係性も再び扉が開き、動き出すことでしょうね。

人とのご縁の不思議を味わっていらしてください。
その後の、エッセイを楽しみにしています。

天候不順な折、充分に気を付けていらしてくださいね。

2016/07/24 05:35:34

行ってきます

パトラッシュさん

シシーマニアさん、
先輩からの連絡は、もうないだろうと思いつつ、一方で、そんなことはない、必ず来ると言う、妙な思い込みも、実はありました。
どちらでも、よいと思っていました。
こうなったら、なったで、その方向へ進めば良いと思っております。

私自身、変人を自認しておりますが、先輩の変人度には、負けます。

2016/07/23 16:42:40

決着は……

パトラッシュさん

吾喰楽さん、
いっそのこと、変人競争をやりましょうか?
そう、どちらがどうか、シニアナビにおける、投票で決めるのです。(笑)
事前運動も買収もありで……(笑)
私は、かなりのこと、自信があるのですが。
もちろん、私が……の方にです。

ウィールマンさんは、きっと吾喰楽さんに一票入れるでしょう。(笑)

2016/07/23 16:37:17

つまり取材なのです

パトラッシュさん

Reiさん、
貴女は変人ではありません。
(肥後もっこすでは、あるかもしれませんが)(笑)
変人×変人、八ヶ岳山麓は、大変なことになりそうです。(笑)
私は、自分が楽しむことも、さることながら、この対決を、エッセイのネタにしたいために行くのです。
では、乞うご期待……

2016/07/23 16:32:15

そうです

パトラッシュさん

ryuuseiさん、
誘われるうちが花です。
まだ私も、賞味期限内だと、そう思うことにします。
標高が1300メートルあり、東京とは、気温が大分違います。
風邪をひかないように……
行ってきます。

2016/07/23 16:27:26

再開で、再会ですね。

シシーマニアさん

そうでしたか・・。
昨年、師匠がブログに書いていらした、「三年の縁」の方ですね。

なんとなく、頭に残っていました。
一方的に誘ってくれる人からの、誘いが来なかった時、こちらはどうするか・・。と言うのも、ちょっと考えさせられましたし。

人の悪口を言わなかった、義母の口癖「あの人変わってるねぇ」を思い出しました。
変人という表現は客観的で、相手を傷つけませんよね。

2016/07/23 10:17:36

変人2

吾喰楽さん

お早う御座います。

パトラッシュさんは、極めて常識人だと思います。
そのように思う私は、変人なのでしょうか?

2016/07/23 10:15:47

変人

Reiさん

どこからが「変人」かという境は、難しいと思います。
自分が当たり前だと思っていることが、人から見るとおかしい・・・というのは、いくつもある気がします。
そういう意味では、私も変人かもしれません(^^;)

楽しい旅の報告・・・変人×変人・・・失礼!を楽しみにしています(^^)

2016/07/23 10:02:55

君が信濃

ryuuseiさん

お誘いがあるのも華ですよね、、

今の信州は爽やかで凌ぎ易いことでしょう

気を付けて行ってらっしゃい〜

2016/07/23 09:21:26

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