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パトラッシュが駆ける!

値切る 

2016年07月16日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

「叩く」「切る」「殺す」……
囲碁は「盤上の格闘技」とも言われる。
物騒だが、しかし心配はない。
盤上に限ったことである。

一方で、囲碁には、閑雅な側面もある。
交互に碁石を置くことにより、対局者が盤上で、あたかも、
会話を交わしているように見える。
そこで「手談」と称せられたりもする。
その悠然たる光景から「君子の嗜み」と言われたりもする。
碁には、様々な側面があり、奥行きの深さがあり、それが人々を夢中にさせる。

私は生徒達に、碁を教えるに際し、こんな風に説明をしている。
現実社会においては、法律や規則により、禁じられていることが、たくさんあります。
一方で人間には、様々な欲望があり、闘争本能もその一つです。
思いきり暴れる。
相手をやっつける。
現実社会では出来ない、乱暴狼藉が、碁盤の上に限っては、思いのままです。
だから、存分におやりなさい。
とけしかけたりする。

人を見て言う。
碁をやる人の中にも、戦うことを、好まない者がいる。
そういう人に対して言う。
碁では、闘いを避け、平和路線に徹することも出来る。
しかし、それでは上達が覚束ない。
ひ弱になる。
「攻撃こそ最大の防御なり」
私はこれを、口を酸っぱくして説いている。

しかしながら、人間本来の気質と言うものは、容易に改まらないものだ。
歩んで来た人生の過程で、その身に備わった理性、品性というものがある。
その枠から、容易にはみ出せない。
勧めても、けしかけても、暴挙には出ない。出られない。
そういう人が居る。
これに少し困っている。

 * * *

碁の世界には、さらに、含蓄を含んだ用語が多い。
「のぞく」
開いている窓から、室内を覗き込むようなものだ。
「覗きに塞がぬ馬鹿はなし」
この時は、ぴしゃりと閉めるのがいい。
さもなければ、痴漢は窓から侵入し、強盗に変身しかねない。

「ぐずむ」
語感がよくない。
その通り、本来は、悪形とされている。
しかしこれが、時に、妙手となったりする。
良否は紙一重であり、それは例えば、腐りかけた果物が、一番美味いのと似ている。
価値は危ういところにある。
そう考えると、わからないでもない。

 * * *

「その石はもう、命脈が尽きています。どうせ取られるなら、
散々値切って、それから取らせるように」
T子さんとの指導碁で、こんなことを言った。
そうしたら彼女が、怪訝な顔をした。

「値切るって、どういうことですか?」
「買い物の際に、値段を少し安くしてよと、求めることです。やったことないですか?」
「ないです」
これには、私の方が驚いてしまった。

「値段をまけろということです。まけてくれないなら、
買うのを止めるわ、他の店に行ってしまうわと、こう匂わすのです。
せっかく掴んだ客を、ここで逃がしてなるものか。店員が譲歩します。
これを値切るというのです」
我ながら、懇切丁寧に説明している。

「碁の場合には、商品でなく、相手に取られかかっている、自分の石です。
その石を、事と次第によっては、助け出してしまいますよと、こう相手を脅すのです。
既に我が物とした戦利品を、今になり、奪回されてはたまらない。
相手は譲歩し、小さく取ることで妥協する。これが値切るの意味です」
やれやれ、手間がかかる。
盤上に石を置いて示し、何とか、わかってくれたようだ。

「T子さん、店で買い物をする時に、全部、値札のままに買うのですか?」
「はい」
「貴女みたいな美人が『ねえおじさん、これ少しおまけしてぇ』と甘い声を出すのです。
そうすると、おじさんきっと目尻を下げ、サービスをしてくれると思います」
「わたし、出来ません」
T子さんは、真面目な女性だ。
ウソがつけない。
演技な出来ない。
正直を絵に描いたような人だ。
実生活は、それでいい。
しかし、碁の場合は少し、困ったことになる。

「大阪人は、必ず値切ります。デパートでだって
『ねえちゃん、これまからへんのんか?』とダメモトで一応、声をかけるくらいです」
「……」
「まあ、いいですよ。貴女は、値引きなんか求めなくても、生きて行ける。
世間を渡って行ける。無理することはありません」
しまいには、こちらが慰める仕儀になっている。

世の中には、欲のない人も居る。
値切ったことのない人も居る。
長らく商店主であった私には、ちょっとしたカルチャーショックだ。
T子さん個人に限ったことなのか、それとも世相が変化しているのか。
私はその辺のところを、計り兼ねている。

 * * *

実社会では、無理をしてまで、やることはない。
やらないでも、生きて行けるのだから。
しかし、碁盤の上では、是非やってもらいたい。
それが「値切る」だ。
そして「のぞく」だ。
「ぐずむ」も「切る」も「叩く」もやってもらいたい。
そうして、相手の石を殺す。
あくまで盤上のことである。
ここを勘違いしてはいけない。

実社会では、美徳とされる行為が、こと碁盤の上では、むしろ災いとなる。
相手を利する。
だから対局中は、それらを封印してほしい。
非情に徹してほしい。

それをくどいように言っている。
しかし、容易に改まらない。
囲碁のコーチとしては、これに困っている。
しかし、物は考えようだ。
私の教えている生徒達は、揃いも揃って、善人ばかりだ。
人間が人間として、生きて行く上で、碁なんか強くならないでも、
良いのかなと思ったりする。



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プライド……

パトラッシュさん

夏の葉さん、
値切りの本場、関西在住が抜けている。(笑)
それで、身に付かなかったのかもしれませんね、値切りの習性が。(笑)

若い人の方が、計算高いですね。
妙なプライドを持たず、現実的ですから。
高額商品の購入に際しては、息子さんを頼りましょう。(笑)

2016/07/23 05:46:25

値切れません

夏の葉さん

私も値切れないタチです。相手に悪いような気がして。
気が弱いのか、見栄っぱりなのか・・・。
(両方なんでしょうね。ちなみに生まれは東北、育ちは東京、福岡在住半世紀です。)

今のPCに買い換えた時、長男が他の量販店の値段も調べておいて、それをダシに交渉して値切った時は驚きました。

息子が妙にたくましく見えました。

2016/07/23 00:12:19

いえいえ

パトラッシュさん

ウィールマンさん、
そんなに感心しないで下さい。
たかが囲碁、たかが遊びですから。
その中に、かすかに実生活に役立つ、示唆がある。
と言う程度のことです。

ちなみに、吾喰楽さんも、囲碁を出来るのですよ。
今度来日されたら、私の囲碁サロンにも、おいで下さい。

2016/07/19 08:37:21

パトラッシュさん

ウイールマンさん

囲碁って、そんなに深いものなんですね。

また囲碁を通して、色々な人生観を語るとは。

読むたびに、何かを教えられるような、、、そんな気がします。

2016/07/19 03:17:26

碁だけが人生じゃないと思った次第です

パトラッシュさん

彩々さん、
そんなに学ばないで下さい。
人生を語るに際し、私なんか、令詩先生に、とても及ばないのですから。

但し、碁は面白いです。
彩々さんなんか、きっと向いていると思うのですがね。(お父様のDNAを受け継いでいるわけですし)
一度私のサロンにいらして頂いて、本格的に手ほどきしましょうか?(笑)

子供の脳の発育に関し、囲碁将棋が役立つということは、大分認められてきました。
文部科学省も、授業に取り入れることを、少しずつ考えているようです。
(今のところ、各学校の裁量に任せているようですが)

関東人と関西人、その文化の違いはさまざまにあれど……
「値切らない」「値切る」は最も顕著な見分け方ですね。
今度、ご一緒させて頂いて、彩々さんに、その見本を見せて頂きたいものです。(笑)

2016/07/17 08:49:22

人生

彩々さん

二週続きで「囲碁」から人生を学んだ
気がいたします。
面白そうです。
遅ればせながら私も学ぶ必要がありそうです。

パトさんが書かれた最後の行に…
>私の教えている生徒達は、揃いも揃って、善人ばかりだ。
人間が人間として、生きて行く上で、碁なんか強くならないでも、
良いのかなと思ったりする。

いや〜、これは人生哲学、宗教にも通じるお言葉です。
また、碁盤はテニスコート上の戦いにも通じる
物があるのでは!?

碁を通して、戦い方を伝授するパトさんの囲碁サロン、
で楽しく戦術を学び、知恵ある生き方をしる占術にも
通じているようで、これこそ、ゲームなんか放り投げて
小学生、中学生の必修科目に取り入れるべきだと思いました。

子供の知能回復、地域発展のために頑張ってください!

関西人特有の値切り方は、私メにお任せください(笑)

2016/07/17 08:08:07

それは鼻高々だったでしょう

パトラッシュさん

喜美さん、
よくやりましたね。
外国での方が、値切りやすいのかもしれません。
なまじ、言葉が通じない方が……
あちらも商売、ゼスチャーでわかりますから。
そして、値切られ慣れているということも、あるかもしれません。

2016/07/17 06:07:27

喜美さん

碁は全く知りません
碁に関係なく値切る
この言葉は知っていましたけれど
なかなか難しくて 其れがハワイで買い物して値切りましたジェスチャー交じりで真剣でした
日本で皆に教えてもらっていたから値切りまくったのを孫が英語も出来ないのに良く通じてまけさせて買ったわねと 其れから英雄みたいに言われ鼻高々なこと思い出しました

2016/07/16 19:18:49

そうです交渉です

パトラッシュさん

Reiさん、
八年も関西にいらしたのなら、それは鍛えられるでしょうね。
大阪人に言わせると、値切らない東京人なんて、ええかっこしいの、アホみたいなものなのでしょう。

確かに、関西人の方が、人とのコミュニケーションの取り方は、はるかに上手なような気がします。

碁の言葉はたくさんあります。
一般語として、常用されているものも、たくさんあります。
「岡目八目」とか「布石を打つ」などです。

2016/07/16 12:00:43

なるほど

パトラッシュさん

シシーマニアさん、
私は、商売をやっていた関係で、「値切られる」ことに慣れていました。
当然のように、値切ることもやりました。
ヨドバシでパソコンを買う時もです。
そういう癖が付いているのですね。
これだけは、関西人と同じです。(さすがにデパートではやりませんが)

文中に登場する、T子さんも、シシーマニアさんと同じ心境かもしれません。
父母共に、教師をやっていたとのこと、その家庭は、浮世離れして、学究的雰囲気が横溢していたのかも……
でも、それはそれで、良いことで、私がとやかく言うことではありませんものね。

今回は少々、囲碁に偏した文になりました。
特殊な世界の説明は、難しいものです。

2016/07/16 11:53:19

いつも値切ります

Reiさん

私は九州出身ですが、8年間関西に住みましたので、かなり鍛えられました。
「値切る」とは「交渉する」ことだと、勝手に解釈しています(^^;)

碁では、様々な戦法が様々な言葉で表現されているのですね。勉強になります。

2016/07/16 11:22:57

平常心だけでも、退屈なんですが

シシーマニアさん

言葉の面白さですね。

「値切る」の使い方は、碁の打ち方のわからない者には、ちょっと手の届かない世界の感じがしました。

日常生活では、勿論知っていますが、余り値切った記憶はありません。性格的に、ちょっと卑屈になりそうな自分が見えてくるからだと思います。
こんな時は、関西に生まれていたら人生随分違っただろうなあ、と思ったりしますが・・。

ピアノでも、平常心が保てないと、すぐ出るんですよ。若いときは、アンサンブルしていて、喧嘩しているみたいだ等と言われました。一生懸命さが、逆効果として、現れるのですね。

練習とは、いかに指を動かすかよりも、いかに平常心で指を動かせられるか、だなぁとつくづく思います。

2016/07/16 10:40:24

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