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パトラッシュが駆ける!

サラブレッドがやって来た 

2016年07月09日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

小学五年生と一年生。
姉妹である。
お母さんと共に来て、サロンの椅子に、並び腰かけている。
二人とも、背筋がぴんと伸びている。
幼児にありがちな、無駄な動きというものがない。
きりっとした、その目つきもいい。
二人とも、視線をあちこちに、遊ばせるということがない。

「強くなったろうね」
「六段になりました」
お母さんが、姉の方を指差して言った。
「おお……私はもう、とても敵わないな」
「こちらは、初段か二段かというところです」
妹を指差した。

さすがに、蛙の子は蛙だなぁ……
ではなかった。
麒麟の子は、麒麟だなぁ……
ということを、思っている。
頻りに思わされている。
碁なんか、打たないでもわかる。
その子の目と、挙措を見ていれば、おおよそのことがわかる。

「日本に戻って来ました」
「それはよかった。で、学校は?」
「M小を希望し、これから手続きをします」
Cさん夫妻は、共に囲碁のプロ棋士である。
一家は、昨年春に、日本を離れ、パパの故国である、台湾で暮らしていた。
そこに至るまでには、いろいろな事情があったらしい。
いずれ日本に戻るとは、聞いていた。
それが意外に、早かったということだ。

パパの復調が、日本への帰国を促したとも言える。
対局の度に、台湾からやって来る、そのハンディもものかわ、
パパさんは先頃、NHK杯戦においても優勝している。

「土曜日午前中を、子供の囲碁教室に当てています」
「じゃあ、S君やMちゃん、Yちゃんも来るのですか」
「はい」
「じゃあ、来てみようかしら」
「どうぞ」
歓迎ですとは言ったものの、少し心配もある。
私のサロンに集まる子供達は、有段者は少なく、
姉のKちゃんのレベルに、はるかに及ばない。
早い話、この私だって、Kちゃんには負けるだろう。
彼女は早晩、プロを目指すと思われる。
私は、妹のKちゃんにだって、今なら何とか、
勝てるかもしれないが、追い越されるのは時間の問題だ。

相手が悪い。
両親ともプロ中のプロ、さらにその系譜を遡れば、
祖父、祖母、曾祖父など、我が国の囲碁界において、
歴代の頂点に、君臨したことのある一家なのだ。

パパは、元名人。
その夫人であり、二人のママであるIさんは、かつて女流名人、
本因坊など、女流のタイトルを総なめにし、グランドスラムを達成したこともある。
その二人から生まれた子供だ。

歌舞伎で言えば、音羽屋と播磨屋、これが引っ付いて生まれた、寺嶋和史君のようなものだ。
野球で言えば、長嶋家と王家の孫が一緒になり……
いや、止めておこう。
野球に世襲はなじまない。
囲碁にも世襲はないのだが、これが不思議なことに、その才能の多くは遺伝する。
名棋士の子が、囲碁の道に進んだ場合、その多くが頭角を現す。
その確率は、非常に高い。

 * * *

人間の運命というものは、わからない。
この私が、この国のトップ棋士の一家と、関わりを持つ。
なんてことを、誰が予想したであろうか。

そもそものきっかけは、些細なことだった。
十年も前の話である。
近くの小学校で、囲碁将棋のクラブ活動が発足した。
その際、当時金物屋を営んでいた、私に声がかかった。
「指導者が足りません。教えに来てくれませんか」と。
仕事を怠け、碁にうつつを抜かす、道楽者として、世間に知られていたからだ。

恐る恐る、行ってみたら、私でも何とかなりそうだ。
次第に慣れた。
そのうちに生徒達から「わかりやすい先生」と評されることになった。

こうなると、私は調子に乗る。
図に乗る。
「おれには案外、教える才覚があるのかもしれない」から「かもしれない」が消え、「ある」「あるのだ」となった。

えーい、やっちまおう……
どうせ限りある人生ではないか。
金物店を閉じ、その跡を、囲碁サロンにと、変えてしまった。
この歳になり、何時までも稼ぐ、儲けるなんてことに、こだわる方がおかしい。

その名も「西荻mini囲碁サロン」
碁盤三面、収容人員六名の、文字通りのminiサロンである。
身の丈に、合ったことをやろう。
女性と子供を、優先して受け入れることにした。

ベテランのおじさん連は、何処の碁会所へでも行けばいい。
行き場のない、初心者をこそ、受け入れてやろう。
顧客の選別、これをやった。
私自身が、おじさんのくせに、これを同族嫌悪というのであろう、
おじさん連をのけ者にした。

しかし、これが良かったのかもしれない。
子供の生徒が増えた。
ある日、Iさんが、当時幼稚園児だった、次女を連れ、私のサロンに来てくれた。
手ほどきをしてほしいと。
プロとても、初心者に教えるのは、容易でない。
むしろ、億劫なのだと知った。
元名人のパパだって、長女には、一から教えたものの、次女の時にはもう、うんざりして、
女房に丸投げし、その挙句に、私のところへ来たくらいなのだから。

ともかくも、私は、未来の女流名人に、碁の手ほどきをしたことになる。
囲碁界の、サラブレッドにである。
これは、ちょっとしたものだ。

目の前に端坐する、二人の少女。
これがやがて、この国の囲碁界に、その名を轟かす。
轟かすはずだ。
その日が、早く来てほしい。
早くしてくれないと、私は死んでしまう。
私は、囲碁を教えるに際しては、気長にやるが、他のことには、至って気が短い。
やきもきして、それだけでもう、死にそうになる。



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プロもいろいろ

パトラッシュさん

シシーマニアさん、
プロ棋士にも、二種類あるようです。
子供にも同じ道を歩ませたい。というのが一つ。
子供には、自分と同じ苦労を味あわせたくない。だから進路については、必ずしも督励をせず、その自由意思にまかせる。
というのが一つです。
本文に書いたIさんは前者、コメントに書いたもう一人の女性棋士は、後者と言うわけです。

子供の育て方に、その親の人生観が表れていて、
面白いなと思いました。
その点、私のような、才能なき者は、気楽です。
傍観者として、高見の見物を決め込んでいればよいのですから。

2016/07/11 07:14:04

大成するサラブレッドこそ、一流ですね

シシーマニアさん

師匠、まさに、おっしゃるとおりでした。

「もしかすると、技術面ばかりでなく、そう言う気質もまた、
DNAにより、受け継がれるのかな……と思ったりもします」

確かにそうですね。表からは見えにくい部分かもしれませんが、確実にその辺にも才能が必要ですね。

2016/07/10 21:33:23

サラブレッドも様々で

パトラッシュさん

シシーマニアさん、
その道のプロというものは、特に勝敗により、絶対評価をされる者は、
柔な神経では、務まらないのだろうな……と思います。
人間ですから、常勝というわけには、行きませんものね。
負けた時、それに耐え得る、強靭さ、あるいは一種の鈍感さがないと、
務まらないのではないでしょうか。
もしかすると、技術面ばかりでなく、そう言う気質もまた、
DNAにより、受け継がれるのかな……と思ったりもします。

囲碁界には、兄弟棋士、姉妹棋士も居ないではありません。
身内で戦う時もあるでしょうが、一旦盤を離れると、
仲の良い兄弟だったりするようです。

私の知る、もう一人の女性棋士には、同じように二人の女の子が居るのですが、
その進路は、当人達に任せたようです。
その結果、姉の方は、とうにプロへの道を捨てたようです。
妹の方は、まだ決めかねているようです。
ちなみに、その姉の方は、ピアノが得意です。
今、高校生。
もしかすると、そちらへ進むのかなと、思ったりします。

2016/07/10 20:57:50

身内が、同じ道を進む厳しさですね

シシーマニアさん

全く碁の世界に疎い私でも、ブログ内に書かれている内容で、どなたのことか解りました。

血筋とか、DNAというのは、確実にありますよね。

私は、二人のお嬢さんの、これからを想像してみました。
同性のきょうだいが、同じ道を進んでいく、厳しさと過酷さ。
それが、本人達を強くしていくのかもしれませんが・・。
当事者としては、きついでしょうね。

2016/07/10 20:31:18

出会い

パトラッシュさん

彩々さん、
目の光に、思いが及ぶところは、
さすがに人を多く見て来た、彩々さんならではです。

きっと若い頃の貴女も、目が輝いていたことでしょう。
(いや、今でも輝いていますけど)

人との出会い、おっしゃる通りです。
大事にしたいと思います。

2016/07/10 08:12:48

狭い世界ですから

パトラッシュさん

Reiさん、
有名人と言っても、囲碁の世界のことですからね。
囲碁を知らない人には「何それ?」です。

でもまあ、狭い世界の中でも、彼女らはエリート、
私も少しは鼻が高いというものです。

2016/07/10 08:12:19

未来を感じさせてくれる

彩々さん

この「未来」という二文字には、限りなく
つづく長い道に立つ、凛とした姿をイメージ
します。

そして未来の○○名人になるであろうという若人は
目が違いますね。
キラキラしていて、本人は気が付いていないかも
しれませんが、子供と言えどもその眼差しは鋭いです。
射る様に先を見る目を持っています。

そうした未来を感じさせてくれる子供に会うと
応援したくなる気持ちと、同時に怖気づく自分が居ます。

戻りようがない過去に戻りたくなるのは、こうした
時です…。
あの時、こうしていれば…なんて、柄にもなく過去に
未練を覚えることがあります。
ただただ歳を重ねた事への後悔、慚愧に堪えない
想いになります。

パトさんは、「西荻mini囲碁サロン」を運営されながら、
また、小学生たちに囲碁を教えられる中で、光る原石と
思われる若者と奇跡的に出会われているのですね。

>ともかくも、私は、未来の女流名人に、碁の手ほどきを
したことになる。

これは、凄い、凄いこと!

人生って、人との出会い、こういうことがあるから
止められませんね。

2016/07/10 05:16:12

気長に

Reiさん

こんばんは。

師匠がそんな有名な方とお知り合いだったなんて!

どうか気長にお待ちください。
ダイヤモンドの原石が、輝き始める日を・・・。
その時、ニコニコ笑う笑顔の師匠を私も見たいです。
「西荻mini囲碁サロン」も有名になるかもしれません(^^♪

2016/07/09 21:31:25

いえいえ

パトラッシュさん

山すみれさん、

たまたまなのです。
世間は広いようで、案外狭いのです。
長く生きていると、いろいろなことがあります。
それをつい、自慢したくなってしまいました。

2016/07/09 20:15:36

凄いです♪

山すみれさん

その日は

早く来ると

想っています。

ナビを気長に・・・・・

見届けさせて頂く〜

愉しみが増えました〜^^♪

2016/07/09 19:41:34

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