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敏洋’s 昭和の恋物語り

[舟のない港] (六十五) 

2016年06月29日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



「もう、一年が経つのか」「もう、一年ですね」
お互い、感無量の思いにそれぞれ浸った。
そして、静かに箸を進めた。

普段の汁物と焼き魚に和え物そして男がなくてはならぬものとしての漬け物の四点料理に加えて、今夜はお祝いだからとショートケーキがテーブルに並べられている。
今夜ぐらいは贅沢をしてもいいでしょうと、男の顔色をうかがうミドリだった。

思わず、すまないという言葉が口にで出かかったがぐっと呑み込んだ。
その言葉を口にすると必ずと言って良いほどに涙ぐむミドリで、あたしがあなたのところに来なければ‥‥と台所で泣き崩れてしまう。

ほぼ食べ終わった時、男が口を開いた。
「実は、ミドリには黙っていたけれど、この間お母さんに会ったよ。
『黙っててくれ』と言われたが、心配してみえた。
『うまくやっていますよ』と答えたら、すごく喜んでもらえた。
どうだい、一度帰ってみないか」

「いや! もう二度と母のことは言わないで。
私はもう、過去の生活を捨てたの。今更、母の元には帰れない。今母に会ったら‥‥」

思いもかけない、ミドリの強い口調だった。
ミドリの口から、次の言葉は出なかった。 

この半年近くの同棲生活は、張りつめた緊張感の連続で、淋しさと闘い続けてきたミドリだった。
やり慣れない家事を、精一杯こなしてきた。
戸惑いもあった。生活習慣の違いに、驚かされもした。

些細なことだが、朝食時の洗顔に驚かされた。
ミドリの家庭では、先に洗顔を済ませてから食卓に着くのだが、男は食後に洗顔をした。
歯を磨くときに洗えばいい、二度手間になると言った。

さっぱりするのに、と、ミドリの目は訴える。
しかし、口に出して言うことはなかった。
男には、それが疎ましく思えた。言いたいことがあれば、言ってくれ、と思う。
しかしその事を、男もまた、口に出すことはなかった。

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