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パトラッシュが駆ける!

坂の上の家(後) 

2016年06月25日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

広いリビングルームにおいて、女性数人がテーブルを囲んでいる。
今流行の、女子会と目される。
そこへ、つかつかと、男が一人加わった。
何食わぬ顔で、席に割り込んだ。
図解すれば、そういうことになる。
男は私だった。
ということになる。

世の中、何でもそうだが、図々しい奴が勝ちだ。
座席を一つ、実効支配したからには、もう遠慮も何もあるものか。
男は、ワイングラスを手に、ふんふんと、皆さんの話を聞いている。

時に、目をつぶって聞く。
瞑ったつもり、目は開けたまま、耳だけで聞く。
そうすると、皆さんの声が、やけに澄んでいる。
さながら小鳥の囀りのように聞こえる。
音域の高い方から、女将、澪(みお)姫、シッシ嬢、彩女史ということになる。
四種の囀りが交錯する。

この家の窓に寄り、聞き耳を立てる盗賊が居たら、きっと想像するに違いない。
おや、女子大生が集まっているのかと。
それにしては、時折混じる蛮声、あれは何だ。
時に威張った口を利く。
この家の主か。
け、若い女に取り囲まれ、昼間から酒を飲んでやがる。
何と冥加のいいオヤジかと、こう思うのではあるまいか。

いや実は、私自身がそう思っている。
人生には、よくわからないことがある。
成り行きで、こういうことになった。
例え明日、人生が暗転しようとも、今はとにかく、この冥加に身を任せるよりない。

スパークリングワインをたちまち空けた。
赤ワインも、瞬く間に空にした。
次に、ビールをやっている。
空き缶が林立しつつある。
この後、清酒へと進む予定だ。
私の持参した獺祭である。
その後は、どうなるかわからない。

また一人、女性が加わった。
女将のお嬢さんだ。
これがまた美人であり、女優の誰かさんに似ているのだが、その名を思い出せない。

両手に花なんてものではない。
抱えきれないくらいの花だ。
私の冥加は、既にして、この身に過ぎたことになっている。

 * * *

アフロヘアーというものを、私は間近で見たことがなかった。
それが女性であり、しかも白髪となると、なおさらである。
彼女は長身であるから、その毛髪の先までを身長に数えるとしたら、
もしかしたら、私より高いのかもしれない。

紐育の街を、闊歩させたら、さぞ絵になるであろう。
倫敦でもいい。
巴里でもいい。
その女性、シッシ嬢と向き合う席で、酒を飲んでいる。
これが不思議なのだが、その洋風の顔、並びに風情が、
清雅亭の和室にあって、何の違和感もない。
それどころか、十二単を着せ、平安の宮廷に立たせても、臈長けた女房として、
それも絵になるのではあるまいか。

髪は、目立つけれど、所詮パーツの一つであり、その人となりとは関係がない。
人間は髪じゃない。
内面から滲み出るもの、それが大事なのだ。
ということを、残量乏しい私が思っている。
富める者への、羨望を隠しつつ、しきりに思っている。

シッシ嬢は本日、名古屋からおいで下さった。
新幹線とJR線、京浜急行を乗り継ぎ、三浦半島の先端近くまで、来て下さった。
うれしいではないか。
たかがSNSを介してのやりとりながら、その縁を大事にして下さった。

「人生意気に感ず」ということがある。
私だって、江戸っ子の端くれだ。
彼女の演奏会が開かれると聞けば、名古屋まで飛んでも、よいと思っていた。
意気において、先を越されたことになる。

彼女は、音楽家である。
芸大でピアノを学ばれた後、若くしてヨーロッパに渡られ、
ウィーンでさらに研鑽を積まれた。
帰国後は、日本の音大で教鞭をとられている。

私は、自分が音痴であるものだから、音楽をよくやる人に対し、
甚だしいコンプレックスがある。
その演奏するさまを、これが同じ人間のやることかと見ている。

私には、娘が二人居て、その幼少の頃、ピアノ教室に通わせた。
ピアノも購入した。
YAMAHA製の、結構高いやつを、張り込んだ。
私は、戦後の貧しい時代に育ち、こと音楽に関しては、楽器も何もない、
劣悪な環境に過ごした。
その反動ということになる。

妻が必死に、練習を督励した。
ちなみに彼女も音痴だ。
今時、カラオケのある場に行っても、一曲も唄わない。
ではなく、唄えない。
例外は、パーティなどで合唱する時だ。
その他大勢の一人となり、口パクという方法で、何とかその場を繕うことが出来る。

鳶夫婦の間に、鷹が生まれるわけはない。
娘二人は、小学生のうちに、ピアノへの意欲を失った。
才能の限界を悟り……と言えば、聞えがいい。
単にやる気を失くし、ピアノを捨てた。
おのれの進路から、除外したということになる。

しかし、楽器としてのピアノを捨てるには、難渋した。
200キロもの重さがある。
それを、無理無体に、安普請の木造家屋の二階に置いてあった。
業者に頼み、引き取ってもらった。
同じ困難でも、運び込む時には、大いなる希望に燃えていた。
運び出す時には、もうさっぱりと醒めていた。
部屋が広くなり、清々したじゃないかと、
さながら疫病神を追い払ったように、ピアノの跡地を見ていた。
私は所詮、音楽とは、縁のない人生だったということになる。

それだけに、音楽をよくやる人、わけてもその道のプロには、
限りない尊敬の念を抱いている。
ちなみに、美術の分野でも、同じようなことが言えるのだが、
その尊敬の念は、音楽ほどに高くない。
私は、絵だって下手なのだが、下手は下手なりに、描こうと思えば描ける。
音楽の場合は、手も足も出ない。
その差だと思っている。

 * * *

清雅亭での、陶然たる時間が過ぎて行く。
何かのテーマについて、話し合ったわけではない。
雑談に終始している。
それでいて、一座に笑いが絶えない。
だから、漫談と言えなくもない。

音楽家、温泉ソムリエ、占い師……
錚々たる顔ぶれながら、誰も自らの専門分野を、進んでは語らない。
鼓吹しない。
おのれの薀蓄を、ひけらかさない。
これが良いのであろう。

女将は酒を、嗜まれない。
それでいて、酒飲みに寛容だ。
常に微笑を浮かべ、皆さんの話に頷いている。
さながら、実家に集まった娘達の、恙なきを喜ぶ母親のように。
これはいい光景だ。

坂の上の家を、初夏の風が吹き抜けて行く。
                      (了)



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写真

パトラッシュさん

シシーマニアさん、
貴女は写真写りもいいし、何処へ出しても引けを取らない、堂々たるお姿です。
(たしかに、自分の写真を見るのが好きだという人は、あまりいませんけどね……)

一族って、言ってもねえ……
私は酋長でも親分でもなく、たまたま年長であるというだけ。
号令一下、手足のように動いてくれればいいのですが、いずれ劣らぬ個性派の面々、私の命令なんか聞くものですか。
(ああ、清水次郎長やジェロニモが羨ましい)(笑)

2016/06/27 06:56:47

ちょっと、嬉しいですね

シシーマニアさん

私は、余りわかりませんでした。
と言うのも、自分の写真を見るのは余り好きではないので、凝視してはいないからかもしれません。

でも、光栄ですね。
実を言うと、パト師匠一族(?)に出会えたのは、このブログに参加したご褒美だと思っていましたので・・。

本当に、素晴らしいパーティでした。

2016/06/26 21:07:10

不思議なことに

パトラッシュさん

澪つくしさん、
実はそうなのです。
写真を一目見て、気付きました。
似てるなあ……って。
しかし、自分で言うのもいかがかと思い、黙っていました。
(シッシ嬢が気を悪くされてもいけないので)
(澪さんが言う分には、客観性があって、よろしいでしょう)
世の中には、自分に瓜二つの人が、三人は居ると言います。
(親族を除き)
そのお一人だと思うことにします。

2016/06/26 18:30:57

遅いコメントで・・・m(__)m

澪つくしさん

私の悪い癖・・・「とりあえず・・・」なんです!

皆さんブログUPされたのに、私は前菜の俳句
だけでメインディッシュは無しです。

待ち望んでいたこの「後編」も、とりあえず拍手!
で拝見しましたの印だけ〜
で、コメントが後回しになっちゃいました。

何分”仕事と言う名の野暮用”でアタフタの日々です。

さながら異業種交流会の飲み会も好いもんですね♪
お題は”食べること・飲むこと・お喋りすること”
「酒は妙薬、こころに楽し」でしたね。

今、つくづくと写真を見ながら・・・
みんな楽しそう(^^♪
そして気が付いたことが・・・
パトさんとシシーさんのお顔がそっくりデス!
外観は当然違いますが、造りと言うか・・・配置が!

前世のつながりのお引き合わせかな?なんてネ!

楽しかったです♪
また是非、ご一緒させてくださいナ!

彩さんが仰るように、皆で近場の温泉でも・・・

2016/06/26 12:29:39

描写が偏り……

パトラッシュさん

彩々さん、
楽しい一日でした。
こうなると、次のチャンスが待たれますね。
温泉もいいですね。

今回、彩さん、澪さんについて、詳しく言及出来ませんでした。
初対面の、シッシさんの方に、描写の重点が行ってしまったものですから。
次の機会には、スポットライトをより強く当てたいと思います。
悪しからず、ご了承ください。

2016/06/25 19:23:29

ヨッ、待ってました!

彩々さん

「坂の上の家」の後編を首を長くして
待ってました。

待ちに待った6月10日の「坂の上の家」での
出来事は、ほとんどの方が初対面だったなんて
信じられないほど、違和感のない仲間意識が
生まれて、不思議なひと時でした。

もう二週間も前のことだとは思えないほど、
何度も思い出しています。

また、きっと集まれる機会があることを
感じています。
その時は、当たり前のように、喜美さんのお嬢様も
加わって、さらに日程が合わなかったGさんも
Rさんもと、総勢○○人のご一行様として温泉に
でも行きたいものです。

2016/06/25 16:56:47

でしょう

パトラッシュさん

シシーマニアさん、
男ならだれでも、女性に囲まれてみたいもの。
旦那さんが羨ましがられたこと、想像に難くありません。

今回の主役は(主賓といってもいい)シシーマニアさん、貴女だと思っていました。
初登場ということもあり、また、その人物像に対する、関心の高さといい。

惜しむらくは、ピアノ演奏を聞くことが出来なかったことです。
次回は是非とも……

2016/06/25 14:19:02

喜美さんの美声が耳に残っております

パトラッシュさん

喜美さん、
お嬢さんにどうぞ、お見せ下さい。
その女優さんの名を、思い出しかねておりますが、
今度、テレビで見かけたら、お知らせしますね。

おっしゃる通り、美味しい天ぷらを食べ、気分も何も、すっかり「揚って」おりました。

2016/06/25 14:08:18

それはもう

パトラッシュさん

Reiさん、
貴女はもう、決まっています。
「令嬢」
これで、文句ありまっか?

不満なら「令状」でもいいですよ。

当日は、とても楽しかったです。
そりゃ、顔だってゆるみますよ。

2016/06/25 14:03:20

+ONE、だったのですか・・。

シシーマニアさん

師匠が書かれるパーティの様子を、楽しみにしていました。
文字通り本当に楽しくて、遠路訪れた甲斐がありました・・。

そうだったのか・・。
あれは「女子会+お一人様」だったのですね。そのお一人の、主役としての存在感が余りに強くて、考え及びませんでしたが。
もっとも後日、テーブルの上に置いてあった記念写真をみて、「一人、恵まれた人がいるなあ・・」とつぶやいていた留守居が、我が家におりました。

身長に関するくだりは、吹き出しました。色々書いて下さってありがとうございます。褒め言葉を読むのに、飽きることはありません。

2016/06/25 12:06:43

楽しかった

喜美さん

いくら てんぷら食べた作家でも上手過ぎます娘に伝えるか考えます 当たり前の顔ですから(おだて過ぎ)
私も今度のメンバー 鼻高さんで
娘に言いました 
作家 ピアニスト 温泉ソムリエ 占い師 彼女私にそんな知り合いもあるのかとやや疑って お手伝いするとか口実で
皆さんのお顔見に来ちゃったの

ママ一人やっぱり田舎の御婆さんね

仕方ない言われるままだから でも雑談に入ると悪い事とは知っていますけれど人の話まで直ぐとって一人喋りまくるのよ 
まあそれも知って又来て下さることを楽しみにしています

2016/06/25 11:00:26

両手にいっぱいの花

Reiさん

師匠、至福の時間でしたね!
師匠のにやけた?(・・・失礼)笑顔が目に浮かびます(^^;)
それにしても、>女将、澪(みお)姫、シッシ嬢、彩女史とは、よく名づけられましたね。
私がいたら何と呼ばれたかと思うと、ちょっと恐いです。
皆さんの楽しい様子が目に浮かびます。

2016/06/25 10:12:50

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