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敏洋’s 昭和の恋物語り

[舟のない港] (四十二) 

2016年05月31日 外部ブログ記事
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「すまない」一時の激情から覚めた男は、呻くように言った。
「いいの、こうなることを覚悟で今夜は来たの。気になさらないで」 
ミドリは汚れたシーツを洗うからと男に告げ、男は所在なげにタバコに火を点けた。

流し場で洗いながら、ミドリは努めて明るく話をし始めた。
「この間の家族会議の時に、お母さんと妹は大賛成なんだけど、道夫兄さん、何となく反対らしいの。
はっきりとした理由は言ってくれないんですけど。
あんなに優しくて、何でも 思いのまゝにさせてくれるのに。

男の人のことになると、神経質なんです。
ううん、不満を持ったことはないんですけど、今思うと学生時代にボーイフレンドができなかったのは、きっと道夫兄さんがいつも私の傍にいたせいね。

手紙を頂いても、私が読む前に道夫兄さん、破ってしまうの。
だから、武さんのことでも。
血のつながりのない私たちだけに、最近‥‥」

最後の言葉は、ため息混じりのせいか聞き取れなかった。
男にも、初耳だった。
確かに、よくよく見れば似ていないが、一瞥の限りでは兄妹のように思える。

「死んだお父さん、すごく子供好きで養子をもらったらしいんです。
詳しくは知りませんけど」
「初耳だ、そうだったのか。だけど仲のいい家族じゃないか」

「貴方のご家族は? お聞きしたことないわ」
いつの間にか、武ではなく貴方と言う言葉を、ミドリは使った。
無意識の内ではあるがミドリの心の中に、男との一体感が芽生えていた。

「またにしょう」
何故そんな言葉を口にしたのか、男にもわからなかった。
世間一般のどこにでも居る親で、田舎で小さな雑貨屋を営んでいる。
さ程に裕福ではないが、何やかやと物を送ってくれる両親だった。

怪訝そうな顔のミドリに、言葉を付け足そうかとも思ったが、何故かしら口が重かった。
男の傍に戻ったミドリは、余韻に浸るかのように、男に寄り添った。
そんなミドリの髪を、男は手で撫でた。

“血のつながりがない”
そんな言葉を、男は反芻していた。

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