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敏洋’s 昭和の恋物語り

[舟のない港](十五) 

2016年03月17日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



 その夜、部屋の灯りの下で二人の名刺を交互に見ながら、「ミドリ、ミドリ」と呟いてみた。
学生時代に思い浮かべていた平井ミドリとは違い、意外な子供っぽさに男は半ば酔いしれた。
青年時代に戻ったような気持ちだった。

 時計は十時半を指している。
ベッドに寝転がりながら、窓に目をやった。
全くの闇夜だった。
そろそろ小降りになったらしく、雨音が小さくなっている。
明日には晴れそうな気配だ。

 傍らのテーブル上の、読みかけの推理小説を手にした。
灯りをスタンドに切り替え文字を一つ一つ追いながらその情景を思い浮かべた。
犯人とヒロインとの微妙な綾の件になると、その女性がミドリとダブり始めた。

「ここで別れよう。お前を巻き添えにしてしまったことは、すまないと思う」
「今さら、なによ」

 別れを告げる犯人と女性が言い争っている。
逃避行を続ける男には必要な存在だった。
この手の小説にしては珍しくも現実性があると、男には思えた。
愛情を感じている女性ではなく、ただ単に金づるとしての女性としている。
「なんて奴だ、この男は。自分の都合だけで、女性を引っ張り回しているじゃないか。
なにが別れようだ。見え見えじゃないか」

突然に女性が平井ミドリになり、犯人が己自身に思えた。
まだ交際が始まったわけでもなんでもないのに、と何とか打ち消そうとするが、どうにもならない。
仕方なくタバコに火をつけ、天井を見つめながら明日のことを考えた。

これといった仕事の無い毎日だった。
色々の部署から入る要望に応えて、資料を揃えるだけの仕事だった。
入社間もない女性社員の、蔑むような目を避けるように、資料を机に乗せておく。
要望がなければ仕事はない。日がな一日、無為に過ごすだけだ。
フーッとため息をつくと、「明日は、何もないか」と、またため息をついた。

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