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敏洋’s 昭和の恋物語り

[舟のない港](九) 

2016年03月11日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



「おいしい?」と、上目遣いに尋ねる娘に、「苦いよ」と短く答え、タバコに火をつけた。
娘は空になったコップにビールを注ぐと、?今夜は1本だけにしてネ?と目で告げた。

 そして娘は、苦笑いの男の後ろに回ると肩をつついた。

「今夜はおとなしく寝なさい。明日になって後悔しても、取り返しがつかないんだ。そうしなさい」と、肩の手を優しく握り返しながら男は言った。

 暫く無言を続けた後、娘は男の肩から手を外した。
男は、欲情と理性を闘わせながら、最後の一杯を飲み干した。
そしてタバコをくゆらせながら、窓の外のネオンに目を向けた。

――今頃、あのネオンの下であいつは働いているのか。
若くもないあいつが、この俺の不始末のためにどれだけ苦労したことか。
時にイガミ合いながらも、俺の傷を癒し続けてくれた。
それなのに俺は、あいつに優しい言葉一つかけてやることができなかった。

とりとめもなく浮かぶ思い出に、男は浸った。
と、急に灯りが暗くなり月明かりの中に、娘の一糸まとわぬ裸身が妖しく浮かび上がった。
「おじさん、好きにして!」
ふるえ気味の声だった。
しかし有無を言わさぬ強い力が宿っていた。
キラキラと輝く若さが、そこにあった。
男は、黙って背広を脱いだ。   

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