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敏洋’s 昭和の恋物語り

長編恋愛小説 〜水たまりの中の青空〜(十八)築百年とまでは行かずとも 

2015年10月24日 外部ブログ記事
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だだっ広い部屋で一人床に就いた彼だったが、その夜は深々と冷え込んだ。
障子を隔てた縁側から、隙間風が入ってくる。
月明かりが漏れてくる所を見ると、雨戸の立て付けが悪いのだろう。
築百年とまでは行かずとも、相当の古い家屋であることは間違いがない。

父親は「男同士で一つ部屋に」と言ったのだが、母親が頑として譲らなかった。
「先生が眠れませんよ、それでは。気疲れされますわ、きっと。それに‥‥」
口を濁した母親だったが、その意味が父親のいびきであることは、すぐに分かった。
床に就いた途端、高いびきになった。これでは、眠れない。
新婚当初には我慢ができす、離婚も考えたと笑う母親だった。

それにしても寒い。
風呂を上がるなり直ぐに布団へ直行したのだが、足の先が冷えてしまった。
体を丸めているのだが、少しも暖まらない。
しかも困ったことに、尿意を催している。
ビールの飲みすぎだと後悔したものの、今さらどうしようもない。

トイレは母屋の外にある。
外はこの家屋内以上の、寒さだろう。
風の音は収まっているが、ひょっとして雪でも降っているのでは? とさえ、思えてしまう。
何とか我慢できないものかと考えたが、限界に近付いてきた。
彼は意を決して、布団から飛び出した。
上に掛けてある丹前を着込むと、体を丸めてトイレに駆け込んだ。
母屋から独立したそれは、掘っ立て小屋に近い物で、隙間風がそこかしこから入ってきた。
彼は、身を刺すような寒さの中、ほうほうの態で逃げ帰った。

「ううぅ、寒い!」
ぶるぶると震えながら、床に潜り込んだ。
あれ程に冷たいと思っていた布団が、今は実に暖かく感じる。
「なんだ?」
慌てて布団をめくり上げると、電気アンカが置いてあった。
「ごめんなさいね、先生。お寒かったでしょう? 
やっと、それを見つけましたから。どうぞ、お使いくださいね」
襖越しに、母親の声がした。
「ありがとうございます、助かります」

体を丸めてそのアンカを抱きかかえた。
体の髄まで冷え切った彼には、何よりの物だった。
じんじんとその温もりが全体に広がっていく。
母親に抱かれて眠った幼い頃を思い出す彼だった。
“お母さん、怒っているかなあ‥‥・”

茂作の世話に明け暮れ、恐らくは正月どころの騒ぎではないだろうに、と心が少し痛む彼だった。
“そうか。案外、早苗が”
にっこりと微笑む早苗が、脳裏に浮かんだ。
そして、哀しげな目と怒りの顔もまた浮かんだ。
“仕方ないさ。大人の都合、というものがあるんだから”
そんなことを考えながら、とろとろと眠りに入った。

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