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敏洋’s 昭和の恋物語り

長編恋愛小説 〜水たまりの中の青空〜(十七)あまりに稚拙な行為だった 

2015年10月12日 外部ブログ記事
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あっという間にケーキを平らげた由香里は、
「ねっ、先生。約束、覚えてるよね」
と、突然彼に声を掛けた。
母親の視線が気になっていた彼は「うん? あゝ‥‥」と、生返事を返した。
先ほどの母親の目に、彼を咎めるような色はなかった。と、彼には感じられた。
しかし父親に話すかもしれない。
父親は、どう思うだろうか。体を密着させてのこたつ、烈火の如くに怒り出すのではないか。
そんな不安が、彼の心を占めていた。

「先生、ってばあ‥‥」
由香里は、彼の肩を揺すった。
しかし彼は生返事を繰り返すだけだった。
しびれを切らせた由香里は、彼の脇腹をくすぐり始めた。
「な、なんだい。くすぐったいよ」
体を捩って逃げる彼を、由香里は容赦なく攻めた。
「分かった、分かったよ。降参だ、参った!」
床に転がりながら、彼は逃げた。

「だめっ! 許さない!」
由香里は横臥(おうが)状態の脇腹を、なおも執拗に攻めた。
たまらず彼がうつ伏せになると、その上に圧し掛かった。
由香里の胸が、彼の背に当たる。
胸の膨らみはまだ蕾だったが、トレーナーの上からその堅さが十分に感じられた。

由香里の攻撃は止むことなく、彼のお腹へと移った。
たまらず彼は、体を入れ替えた。
仰向けになって、由香里を体から離すつもりだった。
しかし由香里はいち早く、彼の胸にしがみついた。
「せんせっ、スキ!」

しっかりと彼の背に手を回し、顔を胸に埋めた。
由香里の髪から、フローラルな香が漂う。
彼の心に、ムラムラと情欲が湧きあがる。
牧子と離れて一ヶ月以上が経つ彼は、思わず由香里を抱きしめてしまった。
“だめだ! 手を放すんだ!!”

やっとの思いで由香里の肩を掴み、体を離した。
由香里は悲しげな目を見せ、
「由香里のこと、嫌いなの?」
と、彼を問い詰めた。
「そうじゃない。由香里ちゃんは、未だ中学生だよ」

「違う! もう、中学生なの。クラスの子の殆どが、体験してるわ」
しっかりと閉じられた由香里の唇が、押し付けられた。
それはキスというには、あまりに稚拙な行為だった。
物体の衝突といったものだった。

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