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敏洋’s 昭和の恋物語り

長編恋愛小説 〜水たまりの中の青空〜(十六)バチーン!  

2015年08月27日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



「バチーン! って、あたいの頬を叩きやがったんだ。
親だって叩けないんだよ、あたいを。びっくりだよ、こっちは。
それなのにあいつ、泣いてるんだ。
目に一杯涙をためてるの。冗談じゃないよね。痛いのはこっちだよね。
打(ぶ)たれたのはあたいなんだからさ。泣きたいのは、あたいだろうが。

あいつね、優しいんだ。
あたいのことで、喧嘩したことがあるんだ。
あたいにイタズラをしようとした男にね、食って掛かってくれたことがあるんだ。
でもさ。てーんで、弱いの。反対にボコボコにされてさ。

ホンと言うとね、打たれたのは痛かったけど、嬉しかった。
あたいのこと、ホンとに大事に思ってくれてるんだ。
でね、あたいね、あいつに何かあげたかったの。
でもさ、少ししかお金貰えないし。貰ってもすぐにつかっちゃうし。

でね、あたいをあげようと思ったんだ。
抱かせてやろうって思ったんだ。
それなのに、それなのに‥‥」
もう声にならなかった。小さな店に、女の泣き声が響き渡った。

「はい、バー止まり木でございます。
ああ、どうもいつもお世話になってます。
はい、お見えになってますよ。はい、変わりましょうか? 
はい、分かりました。ご苦労さまでした」

一礼をしながら受話器を置くと、
「松浦さん、カオリさんからです。お店に来て欲しい、とのことです」
と、客の一人に声をかけた。

「ありがとう! それじゃ、行きますか。早く行かんと、またふてくされちまうぞ。
マスター、これで足りるか? 残ったら、貯金だ。
不足なら、次回に回してくれ」

万札を数枚マスターに渡して、他の二人を急かした。
「あんな、お客を客とも思わんような女。課長も人が好いスね。
なんで、通い詰めるんでス? 惚の字なんスか?」
「いや、いや。あれで中々、情が深いんだよ。照れ隠しで、キツイ言葉を使ってるのさ」

後輩らしい男が口を尖らせるが、松浦という男は取り合わなかった。
もう一人の男は、ただニヤニヤとしているだけだった。
「じゃ、マスター、又!」
「はい、ありがとうございました」

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