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敏洋’s 昭和の恋物語り

長編恋愛小説 〜水たまりの中の青空〜(十六)ひみつのあっこちゃん柄なんだ 

2015年08月26日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



「ばかやろう、が。酔ってないよ、喉が渇いただけさ。
どいつもこいつも、あたいの体が目当てで近付きやがってえ。
健二だろう、聡だろう、勝に、武雄…。数えるのも疲れるわ。

あいつ、あたいのこと、どう思ってんだろ。
こんな気持ち、初めてなんだよ。嫌いなんか? あたいのこと。
毎週土曜日に来てさ、黒服にあたいのこと、根掘り葉掘り聞いてさ。

この間なんか、ポシェットのプレゼントなんかしてくれてさ。
黒服は、『あの人じゃないよ』なんて言うけどさ。
名前を言わないなんて、あいつ以外に誰が居るんだ」

だけど、笑っちゃうよ。安物のポシェットでさ、ひみつのあっこちゃん柄なんだ。
あんなの、持って歩けるかってえの。
部屋で、埃を被ってるよお。ベッドに放り投げてあるよお。

あたいがさ、ひみつのアッコちゃんが好きなんだって、一度だけ、一度だけだよ、言ったのは。
違うんだ、一緒に寝てるんだよ、ホントは。
水! 水、頂戴っ!」

彼の差し出すコップを引ったくると、だらしなくこぼしながら空にした。

「聞いてるか、お前。あいつは、あたいのファンなんだぞ。
黒服にそう言ったんだからさあ。
この前、あたいから行ってやったんだよ。
ステージが終わっても、誰からも珍しく声がかからないもんだから、あたいがあいつのテーブルに行ったんだ。

そうしたら、もう顔を真っ赤にしちゃって。下向いて、もじもじしてるのよ。
もう、可愛くなってさ。思わず抱きしめちゃったあ。
そんでもって、おっぱいを触らせてやったの。震えてるのよ、あいつ。

で、耳元で囁いたんだ。『今夜、あたいのアパートに来る? あたいを抱かせて上げる』って。
恥ずかしかったんだぞ、あたいだって。
女から誘うってのが、どんなに勇気がいるか、あいつ分かってんのか。
そしたら、そしたら…」

突然、女が大きく泣き始めた。
何事かと、マスターもお客も、彼に視線を向けた。
「わかんないんです。急に、泣き出されて。何も言ってませんよ、僕」
慌てて彼は、手を振って彼らに答えた。

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