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敏洋’s 昭和の恋物語り

長編恋愛小説 〜水たまりの中の青空・第一部〜(十三) 「えへっ」 

2015年06月02日 外部ブログ記事
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彼が茂作の部屋を覗くと、早苗が甲斐甲斐しく茂作の世話をしていた。
塗れタオルで、やせ細った背中を拭いている。
茂作は穏やかな表情を見せていた。
彼に気付いた早苗は、ニッコリと微笑みかけてきた。
口に指を当て、声を出すなと言いたげだった。

やがて茂作は、コックリコックリと舟をこぎ始めた。
早苗はそっと体を横たえさせると、トントンと胸を叩いて深い眠りに入らせた。
茂作が眠りに入った事を確認すると、静かに部屋を出た。
「ありがとうなあ」
彼の感謝の言葉に、早苗は首をすくめた。
「えへっ」

「早苗ちゃん、ありがとうねえ。ボクちゃん、早苗ちゃんはねえ。毎朝、来てくれるのよ。
ホント、助かるわ。ボクちゃんからも、お礼を言っておいてね」
母親が台所から顔を出して、声をかけてきた。
「そんなこと、いいって。なんてったって、お兄ちゃんのお爺さんだもん。大事にしなきゃ」
早苗の言葉は、彼の胸にズシリと応えた。
早苗が眩しく感じられ、愛おしさもこみ上げてきた。

「ホントに、ありがとうな。その内、何かプレゼントするよ。
何がいい? 洋服はどうだい。可愛らしい洋服を、送ってやろうか?」
「ホント? じゃあさ、早苗が選びたい。今度、遊びに行くからさ。
デパートに連れて行ってよ。ねっ、お母さんに頼んでみるから。
そうだ! お兄ちゃんが帰る時に、一緒に行こうかな。
早苗、今夜にでも話してみる。いいでしょ、おばさん? 
お兄ちゃんのアパートに泊めてもらっても」

「そうねえ‥‥。まっ、お母さんのご了解を得られたらね」
「やったあ! ねえ、ねえ。お兄ちゃん、いつ帰る? 今日? それとも、明日?」
「おい、おい。そんな急にかあ。昨日、帰ったばかりだぞ。もう少し、ゆっくりするよ」
「だってえ‥‥」

早苗のはしゃぐ様を見ていると、どうにも今朝の事が夢のように思えてならなかった。
しかし、一泊させるとなると彼も考えざるを得ない。
母親の顔色を覗き見ると、ニコニコとしている。
子供だと思っているのか? と、考えあぐねた。

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