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垣間見た、ミリオネア 

2015年02月10日 ナビトモブログ記事
テーマ:アメリカ

ピアノクラブは、夏休みを除いて年に10回、会員が持ちまわりでティーパーティと例会を開く、というのが慣例であった。

その会では、招待側のホステスがまず何かを演奏する。

その後は、当日弾きたい人が自由に手を挙げる、といった感じだった。


私にはまず、ティー・パ―ティが面白かった。

親しい地元の人達が、「先週、メキシコへ行ったのよ・・」とか、「まあ、旦那様の出張で・・?」等々、勿論もっともっと難しい内容の話題も飛び交っていたのだが、それは外国からの客を迎えてくれる親切なアメリカ人のパーティーとは、一味違っていた。

テーブルの上には、小さく切った手作りのケーキのお皿と、コーヒーと紅茶の大きなポットが並んでいて、皆立ったまま自分でカップに注ぎながら、とりとめもなくおしゃべりをしていた。


でも実は、そんな会話こそ、最もついていくのが難しい。

何しろテーマは無いし、やっと話の取っ掛かりが見つかったと思っているうちに、話題はいつのまにか、あらぬ方向に変わっていたりする。

社交的な彼女たちは、そんな私を見て、なにか話題を振ってくれたりするのだが、これもお騒がせな存在だったろうな、と今になって思う。


その中に、パティ・アーデンという女性が居た。

彼女は、大学の音楽学部でピアノを教えていて、毎年リサイタルも開いているらしい。


私より大分年齢も高く、経験豊かそうな人で、「毎年リサイタルするのだけれど、必ずプログラムには新しい曲を勉強して加えるようにしている」と言っていたのが強く印象に残っている。



出産後、すっかり演奏会から遠のいていた私は、若干焦り気味で、「よし、私はこの例会で、必ず何かを弾く事を目標にしよう」と決めたのだった。

目標があると、練習の為に、周りに協力をお願いしやすくなるだろう、という計算も働いたのは事実だ。


パティさんも、毎回演奏している一人で、或るとき「今日は、夜にピアノ五重奏のコンサートがあるので、五重奏のピアノパートの処だけ、演奏するわ」という事があった。

メンバーの中の何人かは、夜に聴きに行くという。

「貴女も聴きたかったら、迎えに行ってあげましょうか。連れて行ってあげるから・・」と言ってくれた人が居た。

その頃の私はまだ、運転免許を持っていなくて、毎回の例会も、誰かが「次回は、私が迎えに行ってあげるわ」といったご厚意に、甘えっぱなしの状態であったのだ。


たまたま、その夜はベビーシッターが見つかったので、主人と一緒に聴きに行った。

沢山の人が集まっていて、パティさん達の演奏が終わると、彼女に見送られて帰るおじさまがいた。

主人が、「アーデン教授だ。大学に写真も飾ってある様な大物だよ・・」と言っていた。

パティさん達と、一緒にアンサンブルをしていた、そこの家の主人は、本来音楽家になりたかったのに、家業を継ぐために諦めたという実業家だった。

誰かがメトロポリタン歌劇場の所有者だ、とか言っていた。

これ見よがしの豪奢なお家ではなかったが、休憩時に見た壁に飾られていた大きな絵画には、「ティツィアン」と書かれたプレートがはめ込まれていた。

美術館以外で、プレートの入った絵を見たのは、初めてだった。


それは、街のミュージッククラブの例会だったらしく、入口で日本人の私達を見た受付の人が、意外そうにしていたのは、かなり閉鎖的な集まりだったのだろうと思う。

その界隈には、アメリカでも有数な富豪の住宅がたくさんあって、彼らのコミュニティは、大学内のインターナショナルな雰囲気とは、ちょっと趣を異にしていたのだ。


此処でも、何も知らない日本人が、お騒がせをやらかしたのだ。

しかも、次の例会では、バッハが好きだったというおばあ様の追悼会で、私にも「何か弾いてくれませんか」とお呼びがかかる、という想定外の展開となった。


大富豪のそのお宅のお庭には、素敵な住居から少し離れて、オーケストラも演奏できる様な館があった。

そこで、開かれたバッハ・コンサートで、私はイタリア協奏曲を弾いた。


会が終わった後、新しく決定した会長さんは、ピアノのクラブの会員のシンディさんだった。

彼女は親しげに「来年度は、好きなだけ演奏会に出演して下さいね」と、言ってくれた。

思えば、「短期滞在の日本人」という珍しい存在だからこその、待遇だったのだろう。

これぞ、アメリカ人のホスピタリティなのだ。



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右も左もわからない中で・・。

シシーマニアさん

吾喰楽さん、こんにちは

アメリカにも、オープンな社会と閉鎖的な社会があるらしい、というのが垣間見られて楽しかったです。

ピアノのお蔭で、色々な場面に出会えました。

2015/02/10 16:51:43

ピアノクラブ

吾喰楽さん

こんにちは。

私には縁のないパーティの様子が、目に浮かびます。
ピアノのお蔭で、楽しい異国の生活を楽しめたようですね。

2015/02/10 15:28:50

どんな曲が、お好きですか?

シシーマニアさん

Reiさん、こんにちは

ピアノ、お好きですか・・。時間がおありなら、再開されては如何でしょう。
現在私は、中高年の人を何人も教えていますが、皆さん時間的にゆとりができて再開された方々です。人生経験のある方々だから、教える方も楽しいです。
私は、3歳の時からもう、64年間ピアノを弾き続けています。昨年は、久々に東京でも演奏会をしました。

2015/02/10 13:48:53

ピアノ

Reiさん

私も子どものころ、ピアノを習っていました。
中学生で挫折してしまいましたが…

それでも、今もピアノの曲は大好きで、よく聴いています。

音楽を通じて、ミリオネアのお宅に招かれるなんてすごいですね。

きっと、演奏も素晴らしかったのでしょう。

今も演奏はされているのでしょうか!?
ピアノ大好きの私としては、気になるところです。

2015/02/10 12:42:22

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