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パトラッシュが駆ける!

心ならずも(前) 

2014年11月22日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

酒に弱くなった。
悲しいけれど、なってしまった。
筋力の衰えは、とうに自覚している。
脳力も同様だ。

身体の各部が、経年劣化を余儀なくされる中で、
ひとりアルコールへの耐性だけが、衰えを免れるわけがない。
どれもこれも、さびしいことではあるが、どれもこれも、
仕方のないことだ。

古今亭志ん生は、酒浸りの人生を、八十三歳まで生きた。
だから、酒に害があるとも、思われない。
しかし、息子の金原亭馬生は、同じように酒を飲み、早死にした。
五十四歳であった。
これを見ると、やはり酒が命を縮めたと思わざるを得ない。

私には、信念と言うものがない。
哲学もない。
だから、二人のような、徹底には至れない。
さりとて「細く長く」も、性に合わない。
長生きだけが人生じゃない・・・ということは、常に頭の中にある。

自制心はある。
問題は、そのラインを、どの辺りに引くかだ。
それが、定まっていない。
自制と放縦の間を、のべつ揺れ動いている。

 * * *

毎晩、酒を飲む。
ほとんど習慣のようになっていて、これをやらないと、
一日が終わらない。
だから私には、休肝日がない。

しかし、所詮は一人酒だ。
妻は、付き合いで、舐めるくらいのもの。
そんな人間に、飲ませることはない。
私は毎晩、缶のビールを一つ空け、それから、清酒または焼酎を、
一合飲む。
「そんなもんは、えー、酒じゃあございませんね」
志ん生が聞いたら、せせら笑うであろう。

ごくたまに、たくさん飲むことがある。
仲間と連れ立った時だ。
それは、囲碁会の後の、打ち上げだったりする。

芝居の打ち上げ、花火の打ち上げ、およそ「上がる」に、
めでたくないものはない。
囲碁は、もともと打つゲームだ。
それを終えて、酒場へと上がる。
もう、飲まずには、居られなくなっている。

そこは居酒屋だから、手ごろな肴がある。
仲間と話が弾む。
ここで自制心を持ちだすのは、野暮というものだ。
それは、人間であることを、自ら放棄することになる。

それでも、大人の集まりだ。
「ああ、飲んだ、飲んだ」
ほどほどのところで、誰からともなく、満足感が吐露される。
そうして散会のムードが、一座の中に、さざ波の如く広がる。
「最早、献もあひました。然らばこれで、積ります」
浄瑠璃なら、こうなる。
「積もる」すなわち、最後の酌である。

 * * *

半月ほど前に、友人数人と、横須賀で飲んだ。
居酒屋ではない。
個人のお宅である。
海に近いところだけあって、テーブルには、生きのいい魚がたくさん並んだ。
招いてくれた、ご婦人の人柄がいい。
それもそうだ。
悪かったら、そもそも飲兵衛を自宅に、招いてくれるわけがない。

気心の知れた、仲間が一緒であった。
酒の進まないわけがない。
そのお宅は、ちょっとした山の上にあった。
危ないところであった。
帰りに石段を下りながら、足がもつれそうになった。

今後は少し、慎もう。
深酒をした後は、何時もそう思う。
居酒屋にバッグを忘れ、帰ってしまったことがある。
翌日電話をかけたが、店長が出て「ありません」と言う。
誰かが、持ち去ったに違いない。

なまじバッグなんぞ、持つからいけない。
次は、空身で出かけた。
颯爽と出かけ、颯爽と帰って来た。
そのつもりであったが、帰り着いた駅のエスカレーターで、
転倒してしまった。

なあに、大して酔ってはいない。
おれの脚力を見せてやると、下りのエスカレーターを、
駆け降りてしまった。
擬音で表せば「たったった」である。
そして擬態語を用いれば「すってんころりん」である。

衆人環視の中で、恥ずかしいはずなのだが、それもあまりない。
酒には、そう言う働きがある。
羞恥心を失わせしめる。
そして、人を勇気づける。
人をして、蛮勇に駆り立ててしまうことさえある。

飲酒運転がその一つの例だろう。
「大丈夫だって」
彼らは、つい自分を、過信してしまうのではあるまいか。

私はさすがに、飲酒運転はしない。
しかし、かなりの放埓をやった。
そして、それらが罷り通った。

しかし、何時までも神様は、身近に居てくれない。
そのことを、知らねばならない。
いや、知っては、いるのだが、酔うとつい忘れる。
ここに問題がある。

 * * *

駅前の大通りを、東に向かい、歩いて15分ほどです。
茶子さんからの、案内メールには、そのように書かれてあった。
しかし、グーグルの地図で見ると、そこから少し北に、別の道がある。

私は、車の多い道は、嫌いだ。
大通りよりは、小路、脇道、抜け道が好きだ。
「人の行く裏に道あり花の山」と言うではないか。
京都や奈良、金沢など、何処の観光地に行っても、
私は、裏道ばかり、探して歩いた。

昔は、雑木林の広がる、渺々たる丘陵地帯であったであろう。
そこが切り開かれ、町が出来た。
多摩ニュータウンという、新しく、大きな町であり、
その町の名を冠した大通りが、谷と呼ぶには広い、
平坦部を貫いている。

それを見下ろしながら歩く。
丘陵の尾根に作られた道は、元の起伏をそのままに、
緩いアップダウンを繰り返し、団地や小学校の間を縫い、
たおやかな曲線を描いている。
街路樹の黄葉が、秋の陽に映えて、美しい。
遠くには、小山が連なっている。
私の勘も、まんざらではない。
こんなに気分の良い抜け道なんか、滅多にあるものではない。

木々の茂る公園があり、その中の細道を下ると、
目指す瀟彩亭の裏に出た。
大通りを来るより、倍も時間がかかった。
十一月だというのに、汗をかいた。
しかし、いい汗だ。
これから飲むビールが、さぞ美味かろう。

私は本日、仲間と共に招きを受け、この家にやって来た。
背中のリュックには、清酒「獺祭」の大吟醸、一升瓶が入っている。
今日は五人が集まると聞いている。
真っ昼間から、酒宴をやろうとしている。
飲み過ぎたらいかんぞや・・・
インターフォンを押しながら、もう一度、自分に言い聞かせた。
                   (続く)



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恐れ入りました

パトラッシュさん

我太郎さん、

> 点を取って、えー酒じゃあございませんか

やりますねえ。
今度、小噺でもひとつ、書いて下さいよ。

2014/11/23 08:35:37

印象

パトラッシュさん

マリーさん、
これまで呼ばれたことがなくっても、皆さんの印象ですから、仕方ありません。
新しいあだ名に、慣れて下さい。
人生は、常にチャレンジです。

2014/11/23 08:34:01

お酒

我太郎さん

多少は飲めますが、酒はさけています
喘息の持病が有り、ある量を超すと呼吸困難になるんです
意識して空気を吸い込む程度で、救急車を呼ぶほどではありませんが、苦しくて苦行するようなもんです

>えー、酒じゃあございませんね

点を取って、えー酒じゃあございませんか

2014/11/23 07:24:03

吉行和子

さん

はい。裏街道を歩いていきました。

私、今まで1度も吉行和子と言われたことがないのですが。

どうぞお手柔らかにお願いします。

2014/11/22 22:03:06

いえいえ

パトラッシュさん

おや、マリーさんも、裏道派でしたか。
ご同慶の至りです。

最盛期(三十代の頃)を100とすると、今は70から75くらいのところへ、落ちています。
仕方ありませんね。
寄る年波ですから。

茶子さんは、あだ名。
皆さん、あだ名で登場して頂きます。
吉行和子さんは、来週の次号においてです。
颯爽と・・・となるかどうかは、今はお知らせ出来ません。

2014/11/22 21:16:17

お強い方ばかり

さん

茶子さん(?)のお宅へは私も1本裏の道を行きました。
初めて訪れるにはメインストリートの方が目印があって分かりやすいけれど、裏道は人も車も少なく快適でした。

あれで弱くなったのですか!?
ならば以前はとんでもなく相当なものだったのでしょう。

2014/11/22 21:05:37

いやいや

パトラッシュさん

喜美さん、
優等生なんてことは、ありません。
ご馳走がそろっていたので、食べるのに夢中で、
乱れているヒマが、なかったのです。

さわり魔、時たま居ますね。
酔ったふりして、女性に近づくのが。
あれ、忘れたふりをしているのですよ。
何もかも忘れるくらい酔っているのなら、だいたい、帰れませんもの・・・(笑)

2014/11/22 16:13:16

皆さん強い

喜美さん

顔色一つ変えず普通に話 足取り良く
帰えられた事 私唯驚きました

主人の友達で二人飲む人があり
一人は大声で話しだす 一人は障り魔
直ぐ私の手を取ったり近づくので
振り払うと 又振られたとか離れるの

次の日、来ても忘れているみたい
そんな人ばかり見ているので
平常の皆さんに驚きました 優等生。

2014/11/22 13:03:27

すごくないです

パトラッシュさん

風香さん、
長い文を書くことに、苦労はありません。
短く、手際よくまとめるのが、実は難しいのです。
私の課題は、常にそこにあります。
印刷物だと、字数を制限されるので、必死になるのですが、
ブログは自己規制に任されています。
それで、つい、放縦に走ってしまうというわけです。

裏道歩きは楽しいです。
旅の真髄は、裏道にあり・・・です。
函館を訪れた時は、観光名所がたくさんあり過ぎて、
この裏町歩きが、出来ませんでした。
次の機会には、是非、一人で行き、裏町巡りをしたい思います。
そして、安い酒場で一杯やる・・・
もう、たまりませんなあ。

「道は人生の如し」
まったくその通りであります。

2014/11/22 11:04:46

ご心配めさるな

パトラッシュさん

SOYOKAZEさん、
私の書く文は、虚実入り乱れています。
いや、ほとんど事実なのですが、粉飾がなされています。
それこそ、なんとかの厚化粧のように・・・
五のことを、十にも二十にも、膨らますのが、私の手口ですから。

私の自慢。
未だかつて、酔って嘔吐したことあらず。
  〃  、財布を忘れたことあらず。
  〃  、隣の女性に、抱きついたことあらず。

では、危険信号はどう見分けるか・・・
「もっと飲もうぜ、おれはまだ酔っちゃいない」
こう言い出した時です。

2014/11/22 11:02:42

すごいですねぇ

さん

お話の内容もさることながら、
これほど長く書けることに感服いたします。

酒はほとんどわからないので、
>大通りよりは、小路、脇道、抜け道が好きだ。
>私は、裏道ばかり、探して歩いた。

これにもろ手を挙げて賛同いたします。
たまに迷い込んで、♪迷い道 くね、くね・・ですが。
でも、たまに大通りにでて、方向確認したり。。
道は人生の如しでしょうか。

2014/11/22 10:20:21

どうしましょう

さん

師匠 こんにちは。

私は「ウオッカの産湯をつかった」とか「誰が一番強い」と問われた時、一斉に指さされますが、実はペース配分が上手いからなんですよ。

「酔って来たな」とセンサーが感知すると、さりげなくペースダウン。
その頃には、皆さんはかなりハイになっていらっしゃるから気づかない。

アルコールで一番先に麻痺するのは、その「待った」をかけるセンサーだそうです。
私は、ここが特別仕立てのようで、狂わないから過ごさないのです。
いわばマラソン型のん兵衛です。

何時も「師匠、かなり・・大丈夫かしら?」と心配しつつお別れしていましたが、そんな危ない事があったと知ると、悩みます。

いい調子で、にこにこ呑んでいらっしゃる方に「少し、お控えなさい」とか、話が佳境なのに「もう、そろそろお開きに」そんな野暮は言えません。

あぁ、これからハムレットのように悩む私なのでしょうか?
後編が待たれます。

2014/11/22 10:02:39

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