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パトラッシュが駆ける!

獺祭大尽 

2014年10月17日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

一升瓶の栓を開ける。
清酒である。
「ぽん」という音がする。
盃に注ぐ。
「とくとくとく」という音がする。

口に含む。
霧雨が、音もなく降り、白く乾いた土の表面が、次第に黒く、
潤い豊かな地に変わる。
そんな光景が、脳裏に浮かぶ。
夕まぐれの、小さな入り江に、潮が満ちて来る。
そんな光景の時もある。

その満ちる様は「じわじわ」であろう。
そして私は「しみじみ」嬉しくなる。
酒は、舌ばかりでなく、目にも耳にも快い。

「ぽん」も「とくとく」も、口開けがいい。
瓶の中身、その残量に、関係があると思われる。
今しも栓を切った、その直後こそ、いい音がする。
量が減るにつれ、その音も鈍くなる。

味もまた、同じくだ。
口開け早々が、最も美味い。
酒は生きている。
魚や菜っ葉ほどではないけれど、実は、その花の命は、かなりのこと短い。

日が経つにつれ、味が落ちて行く。
日々、ほんのかすかにだが、そのかすかが積み重なると、
かなりの落ちになる。
特に、夏場がいけない。
残念だが、劣化して行く。

私は、例えば料理に関しては、味覚音痴なのだが、
こと酒に関しては、少しは違いがわかる。
口開けと、飲み終わりを比べると、同じ酒ながら、
そこにかなりの差が生じている。

 * * *

清酒の世界は、百花繚乱であり、好みもまた、人それぞれであろう。
数ある銘柄の中から、私は普段、越後の「八海山」を飲んでいる。
昔の等級で言えば、二級酒である。

吟醸も、そりゃ悪いとは言わないが、値段のこともある。
私は、二級酒で十分とおもっている。
二級こそ、酒の基本だ。
何処の酒造メーカーでもそうだが、その基本がなってなかったら、
話にならない。

たまに「獺祭」を飲む。
こちらは、大吟醸である。(二級がない)
八海山を白米の味とするなら、獺祭は、炊き込みご飯だ。
それも松茸ご飯と思えばいい。
それだけでもう、美味くて美味くて、おかずなんかいらない。
もっとも、白米だって、魚沼産のコシヒカリの炊き立てなんか、
同じく、それだけで、食べられるのだが。

その獺祭が、今年は入手難になった。
テレビで酒蔵が紹介されてから、一気に人気が沸騰してしまった。
客の要望に応えるため、居酒屋などが、競ってこれを置くようになった。

我が家の隣に、酒屋がある。
獺祭が入荷するや、店頭には出さず、倉庫へと運び込んでしまう。
さながら、隠匿するかように。
そして、客の求めに応じ、奥からそっと、出して来る。
「一本だけです」と、もったいをつけながら。
業務用の大量買いには、応じられないということだ。

「入荷待ちです」
断わられることがある。
二回に一回はある。
つまり、入手難である。
そうすると、尚欲しくなるのが人情だ。

隣家であるを幸い、ちょくちょく尋ねる。
「入ってる?」
ありますと聞くや、必ず買うようにしている。
入手難の酒は、人に贈って喜ばれる。
定価以上の価値が出る。
かつての「越乃寒梅」がそうであった。
何処へ持参しても、酒飲みは、おおとばかりに、目を輝かせたものだ。

獺祭もまた、そんなところがある。
何処へ出しても、他酒に引けを取らない。
威張って渡せる。
これを買い込んでおかない、手はない。

 * * *

今年の夏は、暑かった。
冷蔵庫に入り切れない、一升瓶の獺祭を、私はサロンの
ミニキッチンの戸棚の中に、隠しておいた。
妻に見られると、嫌みを言われる。
そして、サロンの客に見られたら、なお厄介だ。
涎を流す客だっているだろう。

しかし、結果的には、これがよくなかった。
このところ、他家を訪問することがなかったのも、響いている。
獺祭が、溜まりに溜まっている。
一升瓶が三本に、四合瓶が五本もある。
さりとて、理由もないのに、誰彼かまわず、進呈するわけにも行かない。
飲兵衛は、この期に及んでも、吝嗇なのである。

秋も半ばになり、初夏の頃に製造された、酒を飲むことになった。
さながら、災害用に備蓄した乾パンを、古い方から食べている気分だ。
実にもう、馬鹿ばかしいったらない。

製造されて、二か月半。
当然のように、味は落ちている。
その落ちを、ほんの微かと見るか、大いにと見るかであろう。
こんな時に、舌が鋭敏であるのは、不幸だ。
私は、財産を溝に捨てたような、気分になる。

 * * *

久しぶりに、他家へ赴くことになった。
酒席が設けられると、聞いている。
好機だ。
私は、備蓄の中から、獺祭の一升瓶を持って行くことになる。

問題は、どちらから選ぶかだ。
最新のを持参すれば、それはもう、当然のように、皆さんが喜んで下さる。
私も、胸を張って居られる。

しかし、私の備蓄は、なお一層古くなる。
乾パンと同じように、古い方から消費するのが、順当と言うものだろう。
しかし、皆さんがそこで、何と言うかだ。
具合悪いことに、獺祭のラベルの下部には、製造年月日も記されている。

世の中は、目明き千人、めくら千人とも言う。
私は、出席者の顔を、あれこれ思い浮かべながら、どちらにしようか、決めかねている。



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お酒だけ

パトラッシュさん

トパーズさん、
ほんのかすかですが、味は変わります。
栓を開け、空気が入れ替わる度に、少しずつ劣化するのではないでしょうか。
人により、それを感じないかもしれませんが、私はあいにくと、感じる方なのです。
他はだめです。お酒だけ、鋭いのです。

2014/10/24 07:16:09

味の劣化

トパーズさん

食べ物は、封を開けたら劣化の一途を辿りますが、
お酒のように瓶に色がつけられ密封されたものでも、
時が経てば味が変わりますか?
今回、パトラッシュさんが、どの瓶から処分しようか
逡巡されているご様子、よく分かり可笑しかったです。

2014/10/24 02:01:39

どうしよう・・・

パトラッシュさん

reiさん、
そんなに、遠慮をなさらないで・・・
買い込み過ぎた備蓄を減らす、好機ですので。

一升で足りるかなぁ・・・
そこが心配・・・

2014/10/18 07:38:31

お酒は・・・

Reiさん

ふ、ふ、古いほうで・・・(^_^.)

私は呑兵衛ですが、そこまで味はわかりません。

獺祭というだけで嬉しいです。
よろしくお願いします(^O^)

2014/10/17 22:05:35

楽しみに

パトラッシュさん

彩々さん、
まだたっぷりとあるから、大丈夫です。
(と言いつつ、飲んじゃったりして・・・)

神戸と言えば、灘、いい酒があるでしょう。
そちらも、楽しみですね。

2014/10/17 20:50:32

それも一理

パトラッシュさん

SOYOKAZEさん、
さすがに、鋭いところを突いています。
大勢で飲むと、おしゃべりに忙しく、じっくり味わっているヒマが、ないかも・・・
(口は一つ)

でも、決めるのは、当日の朝に致します。

2014/10/17 20:47:54

酒飲みは

パトラッシュさん

喜美さん、
他にこだわるものはないのですが、酒だけは、うるさいのです。
美味い不味いと言っても、ほんのかすかなことなのですがね。

2014/10/17 20:44:46

ぎりぎり気を持たせ

パトラッシュさん

吾喰楽さん、
当日の気分で、決めることにしました。

2014/10/17 20:42:29

ふふふ、、

彩々さん

兎に角、私のも置いといてくださいね。

私は私で、関西の美味しいお酒探しておきます。

2014/10/17 15:48:14

古い方を

さん

これを読んでしまったら「古い方をお願いします」と常人なら答えるでしょう。
古くからの悪友なら別ですが(笑)
私も至ってまともな人間ですから。

それに、一人で飲まれたら感じる微かな落ちも、気の合った仲間と酌み交わせば、それが落ちを補ってくれるのではないでしょうか?

私は師匠のお顔を拝見しながら頂けるなら一番古い物を!とお願い致します。

2014/10/17 15:06:37

呑兵衛

喜美さん

お酒飲みも色々考えるのね
古くなるとまずいですか
飲まないのでそんなこと知らない
一升瓶担いで来るのも大変ね
他の物は全くいらないからね
皆さんに伝えて 美味しいものばかり届くと私の物がまずくなるでしょう
そうしたら如何してくれる?
そんなわけで古いのから片付けた方が良いじゃないの他持たない事

2014/10/17 14:58:14

酒席

吾喰楽さん

こんにちは。

>久しぶりに、他家へ赴くことになった。

ここで公表した以上、新しい方を持参するしかありません。
同席する方は、このエッセイを読んでいるはずですよ。

でも、私なら古くても大丈夫です。
日ごろ、碌な酒しか飲んでいません。
少々、古くても平気です。

2014/10/17 14:19:16

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