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自分・ご自分・今時分 

2013年04月06日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

「自分なあ、もっと気いつけな、あかんで」
大阪人は、「自分」を「あんた」と同じように、
二人称代名詞として使うのだそうだ。
ある情報サイトが、大阪人がよく使う言葉として、伝えている。
「マクド」「なんぼ?」「儲かりまっか」など、
もうおなじみのものも並んでいる。

ああ、そうだったのか・・・
旧友のSを思い出した。
もう、三十年も前のことだ。
Sもまた、私に向かい「自分、元気?変わりない?」と言っていた。
これを聞いた時に、何だろうと思った。
どうしてこんな、変な言葉を使うのだろうと思った。

Sには、調子のいいところがあった。
営業をやっていたせいかもしれない。
のべつ喋っている感があった。
熟慮とか、沈思黙考なんてことが、似合わない男であった。

彼は、新婚間もない頃に、関西に転勤させられ、
そこで十年ほどを過した。
ああそうか、その間に身に付いた言葉だったのかなと、今にして思っている。
「身に付いた」はおかしい。
「染まった」と言うべきだろう。
決して美しい言葉ではないのだから。

そりゃ、郷に入ってはであり、営業を行うには、
その地に溶け込んだ方がいい。
しかしながら、言葉まで真似るのは、いかがなものか。
これをアイデンティティと言うのは、大袈裟に過ぎるとしても、
人間には、変えてならないものも、あるはずだ。
安易な同化には、迎合の匂いが付きまといもする。

昔、商売をやっていた頃、東北訛りの若者が、商談でやって来た。
その語るところは、決して流暢ではない。
しかし、そこに媚びはもちろん、誇張も粉飾も、まったくなかった。

「いいよ、○○君の顔を立てて、仕入れてやろう」
彼に目をかけてやったのを、思い出す。
そこで、覚えたての、東京風喋りをしたなら、
私は彼を、あれほどには信頼しなかっただろう。

営業とは何も、機関銃のように、喋ることではないと思っている。
しかし、現実には、早口で、能弁な男が、少なくない。
私は、自分が商売をやっているくせに、
次第に営業の人間が嫌いになった。
近親憎悪のような、ものかもしれない。

その時々で、調子のいいことを言うが、
その語るところに「実」がない。
人の言ったことを、次に会った時には、もう覚えていない。
そんな人間を、何人も見かけた。

Sはしかし、出世はした。
高卒ながら、上場会社の営業本部長にまで、
上り詰めたのだから、商才は人並み優れて、
あったのだろう。

今は、年賀状だけの付き合いになっている。
私は過去に、二回の出版を行ったのだが、
とうとうSには、本を送らなかった。
送れば、礼状くらい来るだろう。
そこには、美辞麗句が並んでいるはずだ。
しかし、実のこもった感想なんぞ、とても聞けそうもない。
そもそも、Sのやつが、じっくり本を読むとも思えなかった。

 * * *

過日、関西に旅した際、戸惑ったことがある。
キッチンや洗面所の蛇口のことだ。
今の蛇口は、レバーを上下して、水を出したり止めたりする。
私が何時ものように、レバーを上げても、水が出ない。
では、こうかと、下ろしてみたら、出た。
思いがけず、どっと迸った。

習性とは恐ろしい。
四日間の旅の間、私は、この誤操作を繰り返していた。
ちっ・・・
舌打ちしつつである。

もしかしたら、関東とは逆に、それも故意に、
そうしているのかと思った。
よくあるであろう、関西には、関東、特に東京に対する、
ライバル意識が。
それかと思った。

エスカレータに乗る時、関東では、左に立ち、右側を空ける。
関西では逆だ。
もとより、小さな問題である。
しかし、小さな問題は、内に込められた、大きな思いの、断片的反映であったりもする。

そう思って、あるところで疑問を呈したら、人に笑われた。
「水道の蛇口に、地域的な特性なんか、ありません」
阪神淡路大震災の際に、物が落ちて、蛇口のレバーを押し下げ、
そのまま水が出っ放しになったそうだ。
一か所ならまだしも、それが方々でとなれば、
水圧の低下を招き、消火活動にさえ、影響を及ぼす。

以来、蛇口のメーカーは、改善を図り、
レバーを上げることにより、水が出るようにしたそうだ。
なあんだ・・・
私の思い過ごしであった。
「関東では上に上げる?そいなら、下げる方で行ったろやないか」
関西人が、こう言ってくれることを、ひそかに期待していたからだ。

 * * *

新しい言葉はまた、既存の秩序や権威への、反発として生まれる。
若者が、新語を創り出し、使いたがるのがそれだ。
但し、消えて行くのも早い。

例えば「めんごめんご」「ドロン」「よっこいしょういち」
「チョベリバ」「KY」・・・
これらは既に、死語となりつつあるのだそうだ。
私はとうとう、一度も使うことがなかった。

「自分」に出くわしたのは、三十年ぶりだ。
まだ死んではいなかったと見える。
してみると、案外長命な言葉なのかもしれない。
しかし、流行ってほしくない。
こんなに紛らわしい言葉はないと、自分は、思っている。



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パトラッシュさん

Rockさんの写真は、何時も楽しませて頂いております。
私は、写真はダメ、音楽もダメ、美術もダメで、
文を書くより他に、能がありません。
仕方なく、これだけ頑張っております。

2013/04/12 10:06:02

言葉は人格を表す

Rockさん

言葉は生まれや 生い立ちや
教養によって形成されると思います。
言葉でその人の事がある程度わかるのはもちろんです。
パトラッシュさんの鋭い観察眼は流石ですね。
それを上手に文に現す 素晴らしい才能と思います。
私は文才がないので 何とかしゃべりで
表現しょうとするけど、浅い教養のせいで直ぐ
ボロが出ます。
言葉に気をつけ 先輩には敬意を払い
後輩には何時も 優しくと 心がけていますが
感情が高ぶると正体が出ます あはは

これからも教養をつけて 上品になりますね
多分無理でしょうけどね (^^♪

2013/04/10 23:40:45

一括りに関西弁とは・・・

パトラッシュさん

関西と一口に言っても、広いのですね。
私たち関東の人間には、みな同じに聞こえてしまうのですが・・・

2013/04/06 21:13:00

人間も・・・

パトラッシュさん

喜美さん、何時もありがとうございます。
蛇口一つにも、背景があるのですね。
まあ、あまり気にしても、仕方ないですけれど。
最新と思われたものも、時が経つと・・・
この辺は、人間と同じかも・・・

2013/04/06 21:10:05

言葉は

我太郎さん

地域の言葉って地域限定だと思います
「あんた」と同義語で「自分」が関東で語られていますか
関西で50年暮らしていますが、兵庫県ゆえか最近は聞かなくなりました
大阪市内限定かな?
市内に住んでいた頃は、違和感なく使っていたこともあります
確かにこれには戸惑うでしょうね

2013/04/06 10:27:50

喜美

喜美さん

そうなのよね 水道の蛇口我が家は
築60年 ある時水回りはお風呂も横になっても入れるように トイレも水洗にと 色々その時の最先に作りました それからあの地震で 我が家は
下にすると出ます その時不思議だなーと思いましたけれど 我が家のが今新しいのだと思い込んでいましたら
娘が地震のこと話してくれて納得しました でも慣れた手は他所様に行くと
間違えます 今更直しません

2013/04/06 10:24:48

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