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パトラッシュが駆ける!

卒業しません 

2013年03月29日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

「でもしか先生」ではない。
「いちおう先生」なのである。
私は、週に一回、近くの小学校に行き、
クラブ活動で囲碁将棋を教えている。
そこでは「先生」と呼ばれている。
他に呼びようがないのだから、仕方ない。
もう、六年もやっているから、今ではその、
一応先生にも、すっかり慣れた。

今年も、卒業式が近付いている。
六年生の部員が、五人居る。
週に一回の付き合いながら、六年間ともなると、
相当な時間を共有したことになる。
他人とは、思えなくなっている。

歳から言えば、孫みたいなものだ。
孫は、何時まで経っても、孫だが、生徒は卒業すると、生徒でなくなる。
そりゃ、道で会えば、挨拶はしてくれる。
にこやかな顔を、向けてはくれる。

それでも、「元」の付く生徒となる。
飛び立とうとする、鳥のようなものだ。
鳥の方は、前途洋洋であり、見るからに楽しそうだ。
先生の方が、だらしない。
「掌中の珠」を失ってしまうようで、がっかりしている。

一応先生でもこれだ。
本当の先生なら、もっと辛かろう。
私は、でもしか先生にならず、よかったと思っている。

 * * *

「ずいぶん、酔ってるわね」
「つい、飲んじまった。何しろ、納会だ。めでたい日だ」
「早いんでしょ、明日は」
「5時に起きる。5時半に出る。6時26分のひかりに乗る」
「早く寝たら」
「そうも 行かない。今日は、なでしこのサッカーがある。
アルガルベカップだ。見なけりゃならん」
「もう、知りません」

妻が呆れている。
私だって、好きであたふたしているわけではない。
スケジュールがたまたま、混んでしまったのだ。

旅に出たいと、かねがね思っていた。
今回は、奈良の友人を訪ねて行く。
早春の吉野、飛鳥を歩くつもりだ。

しかし一方で、T小学校囲碁将棋部の、納会が迫っていた。
六年間、手塩にかけた生徒達との、これが別れとなる。
出なければならない。
それで旅の方を、ぎりぎりまで、延期していた。

「先生、乾杯の音頭をお願いします」
開会の前に、 幹事が言い出した。
咄嗟のことで、何を喋ったらよいか、わからない。
「囲碁将棋をやっていると、人生で必ず、いいことがあります。
先生の経験から、自信を持って、そう言えます。
皆さん、卒業しても、囲碁将棋を、続けて下さいね」
生徒達に語りかけ、それから「かんぱーい」と盃を上げた。

私達の納会は、異例かもしれない。
生徒はもちろん、その父兄も一緒になって行われる。
(と言っても、お母さん達だけだが)
まだ明るい4時から、居酒屋においてである。
十数人の生徒達は、別のテーブルに集まり、子供向けの料理を食べる。
大人は酒を飲む。

先生は特に飲む。
今時の居酒屋には、飲み放題のコースがあり、
幹事が気を利かせ、これにしてくれている。
「さあさ、先生方、遠慮なく」
お母さん方が勧める。
皆さん、美人である。
これが飲まずに居られなくなる。

但し、酔いつぶれるわけには行かない。
これが、他の酒席と違うところだ。
姿勢を正し、放言をしないように、気を付けて飲んでいる。

先生も大変ですねと、かつて本当の先生に言ったことがある。
そうしたら、彼は、笑って答えた。
「いや、そんなに構えなくても、自然にふるまっていれば、
それで大丈夫です」
その自然のふるまいというものが、彼と私では、違うのである。
つまり素地だ。
それで困っている。

 * * *

間の悪いことだ。
帰り道で、りすぼんのママに会ってしまった。
「寄ってってー」と、人の袖を引っ張る。
まだ七時だから、客も居ない。

「ここね、三月いっぱいで、閉じることにしたの」
「閉じてどうするの?」
「主人の田舎に帰るの」
「何処だっけ?」
「福島」
「・・・・・」

前途を祝すというわけには、行かない。
農家の後を継ぐというけれど、六十になってから、
そんなことが、出来るとも思えない。
しかし、やめろとも言えない。

私は、ほとんど喋らずに飲んでいた。
最後だから、勘定はサービスしてくれるのかと思いきや、
かえって高かった。
スナックりすぼんも、これで卒業ということになった。

 * * *

周囲に、卒業者が続出している。
それで、困っている。
去年の暮れには、友人二人が、相次いで旅立って行った。
病気により、碁をやらなくなった友も居る。

私にも何時か、人生を卒業する日が来るだろう。
その日まで、他のことは卒業すまいと、思っている。
旅も囲碁も、飲むこともだ。
歌舞伎もサッカーもだ。
そしてもちろん、先生もである。
一応が付こうと、この世を卒業するまで、先生の座に、
居座り続けようと、思っている。



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続けてほしいですが、

パトラッシュさん

中学、高校と進むにつれ、面白いことがいっぱい出来るので、
(特に、思春期ともなると)
止めてしまう生徒も、少なくないです。
でも、人生のどこかで、また思い出してくれたらいいなと、
こう思っています。
私自身がそうでしたから。

2013/04/03 07:54:47

送る言葉

さん

囲碁将棋は奥が深い、小学生から始めればきっと一生忘れないで続けて行くことでしょう。
そして先生であったパトラッシュさんの事を思い出すと事でしょう。

2013/04/03 03:04:19

ただ書いているだけで・・・

パトラッシュさん

Rockさん、
三月は別れの季節、ついセンチメンタルになってしまいました。

2013/04/01 20:34:08

仕方なく・・・

パトラッシュさん

みのりさん、
すごくありません。
ただやっているだけです。
行きがかり上、今更、身を引くわけにもいかなくなり・・・

2013/04/01 20:32:21

出会いと別れ

Rockさん

出会いと別れは その人の歩んできた
歴史でもある。
こうしてブログにも書くほど、歴史は有る。
私は表現が下手なので、このような
流れるような文は無理です。
色々な人とのかかわりや 悲喜こもごもが
書かれていて、季節を感じましたよ。

2013/03/31 21:46:56

将棋〜〜♪

みのりさん

パトラッシュさん

小学生に将棋を教えているようですね〜〜♪
すごいです。

もう6年も教えているようですね〜〜♪
ここれからの続けて下さいね〜〜♪

*私など教える資格はたくさんありますが
教えていません?!

2013/03/31 08:59:18

学校によりけりです

パトラッシュさん

学校により、クラブ活動にあるかどうかは、わかりません。
むしろ、ない方が多いかも。
我が校は、たまたま盛んです。

納会は、毎年ではありませんが、隔年くらいに、
行われております。
学校は、関与しません。
父兄の主催により、行われています。

2013/03/30 07:40:45

小学校で

我太郎さん

クラブ活動で囲碁将棋が有るとは知りませんでした
時代に取り残されてるわ
後に名人が出るかも
そうなると先生としては大変ですね

>私達の納会は、異例かもしれない

これって恒例ですか?
最近の学校事情はまったく知らないので驚きばかりです

2013/03/29 20:58:50

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