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パトラッシュが駆ける!

寺子屋の人々 

2012年08月24日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

「せんせー」
バタバタと駆ける音が、店の前で止まり、扉が開いた。
K君だ。
一年生のくせに、彼、大きな声を張り上げる。
碁を始めて、間もないが、もう13路盤で、
いっぱし打てるようになっている。

「おうちで、やってるかい?」
「お父さんには勝つよ。ひまな時、碁の本を読んでるよ」
その目が輝いている。
碁をやりたくて、たまらないようだ。

私のサロンに、小学生の姿が多くなっている。
夏休みに入ってからだ。
日曜が特に多い。
先日は、朝から入れ替わり立ち代わり、
合計8人の客が現れ、そのうちの6人が、小学生であった。

私のサロンは、寺子屋みたいになっている。
但し、菅原伝授手習鑑のような、しおらしい生徒は、
一人も居ない。
今時の生徒は、すぐに自己主張をする。
ジュースは要らない。
冷たいお茶がいいと言う。

K君を最年少とし、一方で、我が寺子屋の最高齢は、
八十二歳のSさん。
今年になってから、碁を始めた。
石を握ったのは、生まれて初めてだそうだ。
八十過ぎての入門者、これは世間にも、滅多にないだろう。

ものになるだろうか・・・
「誰でも、碁が打てるようになりますよ」
とは言ったものの、実は心配していた。
僅かではあるが、指導料を頂いている。
中途で挫折されたりすると、バツの悪いことになる。

しかしSさん、続いている。
雨にも負けず、毎週一回、その細い身体を、
律義に運んで来て、半年が過ぎた。
19路、つまり正規の碁盤で、打てるようになっている。

「家の近くの、コミュニティセンターに,
碁好きが集まっていましてね。
そこの仲間に入ることが出来ました。
まだ私が一番弱いですが」
「それは、よかった」
「その中のTさんには、三子置いて打っています。
この間も、勝ちました」
「おお」

どうやらSさん、曲りなりにも、
自分の居場所を見つけたようだ。
入門者を、囲碁社会に送り出すのが、私の役目だ。
もう、何時手を引いてもいい。
そう思っている。

N氏は、歯医者さん。
読売巨人軍の前代表、清武さんにそっくりだ。
清武さんは、今や渦中の人であり、
眉間にしわを寄せるばかりだが、こちらは何かにつけて、
よく笑う。
「ガハハ」
碁に勝つと、さらに豪快になる。

まだ明るい、4時半くらいに現れることがある。
「おや、診療は?」
「早めに切り上げました」
「いいんですか?」
「いいのいいの」

診療に手抜きはしていないだろうが、少し心配になる。
但し、私だって、散々商売をさぼり、
近くの集会所で、碁に遊び呆けた過去がある。
人のことは言えない。
そして、本当のところを言えば、
仕事一途の人よりも、仕事をさぼってまで、
道楽にうつつを抜かす遊び人の方が、私は好きだ。

N氏も熱心だ。
有段者以上は、もう指導料は要らないと言うのだが、
それでは上達に寄与しないからと、来る度に千円札を置いて行く。

但し、その彼に、いささかの問題なしとはしない。
余りにも、強気一辺倒なのだ。
常に厳しく攻め、その攻めが、往々にして行き過ぎる。
その伸びた腰を、的確に叩かれると、逆に脆くもやられてしまう。

これを直さねばならない。
硬軟両様、和戦両様、譲るべきところは譲り・・・
これを覚えさせなければならない。
しかし、問題はその気質だ。
私が指摘をしても、なかなかうんと、頷かない。
これに困っている。
もう一人、小児科のK先生もそうだが、
医者はどうしてこうも、頑固なのだろう。

「まったくひどい人が居てね」
「どうしました」
「難しい手術なんですよ。それで時間をたっぷりとって、
午後4時に予約を受けたんですよ。そうしたら、
来なくってね」
「困りますね、そういう人は」
麻酔医にも来てもらい、準備万端整えていたのに、
すべて台無しになったそうだ。

「私もかつて、商売をしていました。身勝手な客が、
よく来たものです。でもそういう客は、
断りましたよ、きっぱりと」
「物の売り買いなら、それも出来るだろうけど、
患者となると、そうも行かなくてね」
碁盤の上ほどには、強硬に行かないようだ。

根底にあるのは、歯医者の多さだろう。
かつてこんなことも言っていた。
「大学を出た頃は、金の卵と、もてはやされたもんですよ」
今はもう、卵が値下がりし、そこらに掃いて捨てるほど、
あると言う意味だろう。

確かにそうだろうが、しかし、
歯医者が倒産したとも聞かない。
金物屋なんか、かつてこの町に10軒を越えてあったものが、
今はたったの一軒を残すのみだ。
歯医者だって、他の業界並みに、なったと思えばいい。

「異業種交流」
私のやっているのは、こんなようなものだ。
期せずして、違う世界を、垣間見させてもらっている。

これはなかなか、面白い。
しかし、交流をむやみに進展させるのも、いかがなものか。
私はN氏の患者には、なりたくない。

もともとが、歯の治療は、嫌いなのである。
N氏だって、いくら私が碁の師匠だからと言って、
手加減をしてくれるはずがない。
下手をすると、この際とばかりに、
盤上の仇を取られる恐れがある。
そのきっかけを与えてもいけない。
彼の前では、うっかり大口を、開けないようにしている。



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いいような悪いような・・・

パトラッシュさん

hanahanaさん、どうぞいらして下さい。
子供向けの巻きずしでも作って頂けると、ありがたいのですが・・・
私、格別の子供好きではなかったのですが、気が付いたら、子供園の園長みたいになっております。
一歩外に出れば、品行方正で居なければならず、
これにも、困っております。

2012/08/25 10:11:45

寺子屋

hanahanaさん

いいですね。
私、碁は出来ないけど遊びに行きたいです(笑)
皆さんが集まって来られるのはパトラッシュさんの
お人柄でしょうね。

2012/08/25 08:03:50

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