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パトラッシュが駆ける!
電車で二駅
2012年08月31日
テーマ:テーマ無し
電車に乗って、二駅目のことだった。
乗り込んで来た男に、見覚えがある。
Fだ。
私の斜め向かいに座った
すっかり歳を取り、顔のたるみが目立っている。
頭髪もめっきり・・・と言いたいが、それは私だって
同じだから、言わないでおこう。
私はすぐに気付いたのだが、目が合わぬを幸い、
寝ているふりをした。
武士の情け、そのつもりになっている。
* * *
Fは、町内で建設業を営み、最盛期には、
十数人の従業員を動かしていた。
飛ぶ鳥落とす勢いと言うのは、あの頃の彼の
ことだろう。
次々に事業を拡大し、立派な自社ビルも建てた。
区議会議員への、立候補も視野に入れ、
タイミングを窺っていた節がある。
それだけに、F社の突然の倒産は、世間を驚かせた。
過大な借入金が、あだになったらしい。
バブルの崩壊、担保価値の急落、追加担保の要請、
これに応じられず、差し押さえから競売・・・
モデルケースになりそうな、倒産であった。
しかし、まだ若かったFは、これにめげない。
再び小さな会社を興した。
もちろん社名は変えてだ。
同じ町内の、ビルの一隅を借りるところが、
いかにも彼らしい。
私だったら、倒産の地になんか、
とても止まっては居られない。
Fのことだ。
再び会社を隆盛させると、こう見る向きもあった。
かつての辣腕を知る人々である。
当人もまた、それなりに自信があっただろう。
しかし、世の中は、そんなに甘くない。
一度でも、借金の踏み倒しをやった者が、
再び世間に容れられると思ったら、大間違いだ。
彼が、そのビルの片隅から、脱け出ることはなかった。
それどころか、何年かが経ち、気が付いたら、
社名が消えていた。
「またかい?」
「いや、今度は自主廃業らしい」
噂では、こんなことになっている。
* * *
Fは私に気付いたようだ。
しばらく黙って、こちらを見ている。
声をかけて来るかと思ったが、そのままだ。
連れの女に何かを言っている。
「昔の町内の仲間だ」
くらいのことであろう。
私は寝ているふりをし、薄目を開け、これを見ている。
女は、奥さんではない。
しかし、昔を知らない者が見たら、
似合いの夫婦と見るだろう。
「あいつ、金物屋をやっててな」
私について、さらに語っているかも知れない。
間もなく、彼らは降りて行った。
私の前を横切らず、逆方向のドアからだ。
それ見ろ、やはり彼だって、意識している。
尾羽打ち枯らしてはいなかった。
まっとうな生活を送っているようには見える。
多分、三度目の挑戦は、しなかったのであろう。
但し、彼なら、再婚くらいはやるだろう。
前の奥さんはどうしたか・・・
気になるが、仕方あるまい。
地味ながら、いい奥さんだったのである。
* * *
彼らが消えてから、私は後悔している。
堂々と挨拶をすべきであった。
武士の情けは、余計な気遣いであった。
Fのビルには及ばないものの、私だってその後、
自宅兼貸店舗を新築した。
これを、かろうじて、ビルと言えなくもない。
今や、家賃で暮らす身となり、
今日もこれから銀座に出て、歌舞伎見物だ。
世間ではこれを、いいご身分と言うだろう。
私はちょっと、いい気分になっていた。
Fよりはきっと、恵まれた境遇に居るだろう。
その気分が、Fを余計に、憐れと見たのかも知れない。
* * *
オウムの逃亡犯は、遠くには逃げなかった。
高橋某は、指名手配されても、
電車で数駅の範囲を、うろうろしていた。
土地勘のあるところが、安心出来るようだ。
人間なんて、そんなものかも知れない。
Fは元より、犯人ではない。
しかし、二度の失敗は、やはりその身に堪えたであろう。
電車で二駅くらい離れる。
これが良いのかもしれない。
私だったらどうするか・・・
私はFより、もう少し恥の意識が強い。
電車で四駅。
このくらいは逃げたい。
それでも少し、落ち着かないかも知れない。
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大手を振って
恥の意識は、人それぞれですね。
あまり気にしない人だからこそ、事業を大きく伸ばしたのかもしれません。
私は、Fとは対照的な生き方でした。
スケールの小さな人生でしたが、人に顔向け出来ないようなことは、しませんでしたので、大手を振って歩けます。
2012/09/02 13:17:45
私だったら
親友と言う中ならば別ですが、声はかけません
やっぱり気遣いというのが有ります
電車で2駅に興味を持ちました
おそらくそんなに恥じてないんでしょうね
だけど気が付いても知らぬふりは、幾分心には引っかかりがあるからでしょう
顔向けできないと思えば他県にとなるんではないでしょうか
よく有ることですが、人の心の機微を捉えて面白い内容でした
2012/09/02 07:58:14