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パトラッシュが駆ける!

洪水顛末記 

2012年05月11日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し


「大変なのー、すぐ来てー」
ウォーキングから帰った途端に、娘の悲鳴が響いた。
娘一家は、私の店の二階に住んでいる。

いやな予感がする。
この「大変」というやつ、「小変」くらいのことが多いのだが、
その割りに面倒くさいことが多い。
例えば、ゴキブリが出て、机の裏に潜んだ。
テレビが映らなくなったと聞いて、行ってみれば、アンテナ線が外れていたなどだ。

そんなものに、一々私を呼ぶなよ。
自分達で解決してよと、こう言いたくなることばかりなのだ。
ちなみに私は、ゴキブリを手で掴むことが出来、それを特技の一つにしている。
これがいけないのかも知れない。

舌打ちしながら、二階に上がると、様子がおかしい。
玄関が濡れていて、それに続くフロアーが、一面に水浸しだ。
「トイレの水が、止まらなくなっちゃったの」
娘が慌しく、雑巾で床の水を吸い取っている。

トイレの中では、妻がロータンクの中に、片腕を突っ込んでいる。
「栓を押さえてないと、水が流れっ放しになるの」
「じゃあ、一生そうやってればいいや」
言ってやった。

「前にも言ったはずだぜ。ほらここだ。非常の時は、これを締めるんだ」
給水管の途中にある、安全弁を指差した。
マイナスのドライバーで回すのだが、咄嗟のことだからない。
持っていたキーの、柄の部分を使った。
我ながら、よく閃いたものだ。
こんな時、私は自分が天才ではないかと思ってしまう。

「はい、放していいよ」
妻が手を抜いた途端に、また便器から水が溢れた。
ロータンクにあった水は、便器に落ちたものの、その先が詰っているからだろう、
行き場を失い、床に落ちるよりない。
さらに洪水の量が増えた。
昨年のタイの惨状を思い出す。
あれだって、元が締まらない、行き場がないと言うことで、規模こそ違え、
似たようなものだ。

「六が、トイレから出た後で、こうなったの」
娘が説明する。
下の孫である。
きっと何か、ヘマをやったのであろう。

便器の出口は、U字を伏せたように、湾曲している。
ここに手を突っ込んで見ると、それ見ろ、何かが詰っている。
取り出して見ると、紙だ。
六のヤツめ、ウンチを拭くのに、よほど大量の、トイレットペーパーを使ったと思われる。

「あなた、スポイトが売れ残ってたでしょ」
「いや、ない。みんな売ってしまった」
私は、長年続けて来た金物屋を、昨年廃業してしまっている。
その際に、閉店セールを行い、在庫の商品を一掃してしまった。
それがこんな形で、我が身に跳ね返って来たことになる。

60センチほどの柄の先に、丼くらいの大きさの、ゴムのカップが付いている。
これを押すことにより、水圧をかけ、排水管のつまりを、
押し流してしまおうという、単純な、もっと言えば原始的な道具だ
これが、金物屋のひそかなるベストセラーであった。

よく売れるのである。
それだけ世間では、トイレを詰らせることが多いということだ。
それも、時を選ばずに起きる。
夜中にだって、あり得る。

詰ればそれ以降、トイレが使えなくなる。
朝になるのを待ちかね、客は金物屋に走って来る。
「お、お願いしまーす」
店はまだ閉っているから、大声を発しながら、裏口を叩く。

「子供がですね、紙を大量に流したらしいのです」
多くの客が、こんな事を言う。

「ああ、大丈夫ですよ。これさえあれば」
私は、客を安心させるために、ことさら冷静な声を出す。
「ここを排水口にあてがい、水を押すようにプッシュして下さい。それで必ず流れます」
「ありがとうございます」
この時の、お客さんの安堵の表情たるやなかった。
私は商売をしながら、社会貢献もしている気分になった。
その道を、自ら閉じてしまったことになる。
少し惜しい。

針金を突っ込むなどして、ようやく水が流れるようになった。
水浸しになった床の後始末が大変だ。
小変ではなく、今回のは正しく大変であった。

しかし、私のやるのは、これまでだ。
後は、この家の主婦である娘に、頑張ってもらうよりない。
泣きの涙で、床を拭くのも、今後のためには、きっと良薬になるだろう。

スポイトを一本、常備しなければなるまい。
何処かで買わねばならない。
そう思って、見回してみると、この街の金物屋は、ほとんどが廃業してしまっている。
困って駆け込んで来た皆さんは、一体どうしているのであろうか。

妻が「私死にそうだわ」と言う。
冷たい水の中に、片腕を突っ込んでいたので、身体が冷え切ったそうだ。
洪水による死者一名・・・
と言いかけたが、むくれて夕飯を作ってくれないと困るから、黙っていた。



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力関係は

パトラッシュさん

我太郎さん、いつもありがとうございます。
そうです。
冗談のつもりが、通じないとなると・・・
家庭内の力関係は、年と共に、亭主不利になっております。

2012/05/15 20:18:07

何でもないようでも

我太郎さん

いざとなると大騒ぎは良く分かります
我が嫁さんも人頼りが多いですが、私がふーてんで家にいないので、仕方なくトイレの詰まり対策は覚えたようです
水問題は元栓から止めて私の帰りを待っています

>これが、金物屋のひそかなるベストセラーであった。

我が家にも有り何度かお世話になり、嫁さんも覚えてくれたようです
と言っても強く押すだけですよね

>しかし、私のやるのは、これまでだ。

私は一緒になって始末します
一人で出歩いているやましさが邪魔するんです

>と言いかけたが、

言葉を選ばないと冗談で通らなくなる歳になりました

2012/05/15 09:38:18

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