読書日記

『流言』 読書日記358 

2024年04月13日 ナビトモブログ記事
テーマ:読書日記

上田秀人『流言』講談社文庫

武商繚乱記シリーズの11か月ぶりの新作である。

内容紹介は
世に怖きは噂の力。
見せよ! 町方同心魂

時は元禄、大坂では莫大な富を得た大商家・淀屋が隆盛をきわめる。
淀屋に借金をする大名が増えて、返済が滞る、さらにカネを借りるという悪循環に陥っていた。
もはや、淀屋は世を動かす重要な歯車になっていることに危惧を覚えた
幕府は、目付の中山出雲守を大坂東町奉行の増し役(ましやく)に任じ、淀屋を探らせることに。
大坂・東町奉行所の同心、山中小鹿(やまなか・ころく)は、
上役の娘だった妻の不貞を許せず、少々手荒に離縁したのを理由に東町奉行所内で孤立していた。
「淀屋を潰す証拠を見つける」という密命を帯びた中山出雲守は、気概あるはぐれ者の小鹿に目をつけて、
淀屋の監視を命じる。いっぽうの淀屋も密かに策を練っていたーー。
カネを駆使して武士を水面下で操ることに長けた豪商との争いに直面する
町方同心・山中小鹿は、持ち前の粘り強さでいかに立ち向かうのか。

さらに別の紹介では
大阪城下では淀屋が老中に喧嘩を売ったという噂が流布する。武士の沽券に関わる*自体を調べるため、はみだし同心山中小鹿が噂の出所を探る。

となるのであるけれど、淀屋や本書に登場する淀屋の放蕩息子辰五郎は実在していて、宝永2年(1705年)、淀屋は闕所(けっしょ)となる。つまりは、淀屋は財産をすべて没収され、大坂から所払いとなってしまう。辰五郎の放蕩が表向きは「町人の身分に過ぎたる振る舞いがあった」…一説にはわずか1年半の内に1万貫(現在の価値にすると約10億円)にものぼる遊興費)を遣った…とされているがその実は幕府による大名救済策であった。なにしろ、この頃、西国大名の多くは淀屋に借金がありその資産総額は淀屋の持つ債権を含めて20億両(現在価値で約120兆円**)と言われるものであったのだから。

ただ、この本では辰五郎の父淀屋重當が当主であった時の淀屋として書いている。史実としては、淀屋は闕所処分の下ることを予想して番頭であった牧田仁右衛門に暖簾分けをしその財産の一部を保全した(闕所以前の淀屋を前期淀屋、再興された淀屋を後期淀屋と呼ぶ)。本書でもそののれん分けの構想と準備の一部が書かれているので、著者はこの「淀屋闕所事件」を辿るつもりであろう。

なぜこのようなことを書くのかと言うと、最近の上田秀人は武士の考え方などの背景を描くことが多く、ページ数の割りに話が進まない。本書でも淀屋ののれん分け準備が少し触れられるだけである。
(2024年3月19日読了)

私注
*「沽券に関わる」とは現代では自らの品位やプライドという意味でつかわれるが、江戸期においては沽券とは基本的に土地の売買状であり、土地の所有権を示すものであった。また、武士同士の話では無く(武士の領地は主人から与えられるものである)町人の取引で生じるために武士には「沽券に関わる」事態は生じないと私は考える。そういう意味でこの広告文は誤用とは言わないまでも疑問である。
**現在価値への換算については諸説があり、1両=銭1貫=米一石=6万円〜10万円と幅広い。



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