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読書日記
『与楽の飯』 <旧>読書日記1572
2024年03月29日
テーマ:<旧>読書日記
澤田瞳子『与楽の飯』光文社文庫
著者の本を読むのは2冊目である。著者は「実直な作家」「生真面目な作風」「念入りな調査」というような評価が為されているが、今夏(2021年7月)実に5回目のノミネートで第165回直木賞を受賞した。そのインタビュー記事を読んで、歴史の研究者を志していた(専門は奈良仏教史、正倉院文書の研究)ことを知った。
またインタビューの中で「人が何者かになる物語を書くのは簡単ですが、何かになれる人は本当はそう沢山はいませんよね。多くの人は何かになろうとすら意識せずに一生を終えていく。英雄ではなく、そういう歴史の中で目立たない人の方を書いてみたいんです。」と言う。
本書は奈良時代の聖武天皇がはじめた東大寺大仏造営にまつわる話を、故郷から造仏所に徴発されてきた若者・真楯と造仏所炊屋の炊男・宮麻呂などを中心に「山を削りて」「世楽の飯」「みちの奥」「媼(オウナ)の柿」「巨仏の涙」「一字一仏」「鬼哭の花」の7つの短篇で描いたもの。奈良時代を舞台にする小説は珍しいと思ったが、この本はまさに、著者の専門である時代の出来事を「何者にもならない人」を主人公にして書かれている。
奈良の大仏は多くの日本人が実際に見たことがあると思うが、良く考えて見るとあれだけの大きさのものを8世紀という時代によく造れたものだと思う。その大変さが庶民を主人公として描くことで想像しやすくなっていると思う。
(2021年9月14日読了)
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