読書日記

『あとを継ぐひと』 <旧>読書日記1565 

2024年03月13日 ナビトモブログ記事
テーマ:<旧>読書日記


田中兆子『あとを継ぐひと』光文社(図書館)

働き方、暮らし方、生き方に惑う現代人に贈る、6つの“あと継ぎ”物語。という内容案内と、題名からは「家業を継ぐ」ということをテーマにした小説かと思うが、読んで見ると微妙に違う。

本書とは無関係だが、世界で一番古い企業はどこの国の何という企業であるかを知っているだろうか?その会社設立はなんと578年であるから今年(2021年)まで1443年続いている。

答えは我が国にある「金剛組」という建築会社、正確に言うと<寺社建築の設計・施工・文化財建造物の復元、修理>を専門に行う会社である。設立から2006年までは金剛家による同族経営体制で続いて来たが、現在では株式会社化(2005年)して新体制で続いて居る。ここまで長く家業が続くというのは想像を絶する。

さて、本書は以下の6編からなる。
「跡継ぎのいない理容店」…この話は残念ながら息子が家を継ぐという話では無い。オサダ哲治は昨年、理容店を閉めた。息子の誠は相撲取りを目指していたが怪我をして諦め今は介護職員として働いている。哲治は妻の真由美と離婚して一人で誠を育ててきたが、誠に母親がいなくて辛かったろうという屈託がある。癌の疑いで検査入院することになった哲治は誠に手紙を書き、妻の居所を教える。

「女社長の結婚」…下町の駄菓子工場の女社長・花村万純(30)は、新事業もうまくいかず、恋人もおらず、愚痴を言えるのは幼なじみのマイナーサッカー選手の若林翔太(28)だけ。母から結婚を急かされるなか、翔太からプロポーズをされる。

「わが社のマニュアル」…障碍者を多く雇用する会社に中途入社した翼(25)。同じ部署の障碍をもつ伊藤さんとどうコミュニケーションを取ってよいかわからず、マニュアルが欲しかった。しかし、40年間障碍者を雇用し続けてきた会社に慣れてくると、おのずと「人間同士の交わりにマニュアルはない」ということが判ってきた。

「親子三代」…祐弥は酪農業を営む農家の長男であるが、在京のテレビ局に就職し、現在はその系列会社の部長として働いている。実家は78歳の父・広紀が経営者であり、母・朋子(72歳)と元酪農家の遠藤さん(64歳)が中心となっておよそ60頭の牛を飼育しているが、そろそろ限界である。しかし、祐弥は後を継ごうとは一瞬たりとも考えていないし、サラリーマンであった自分が簡単に転身できるとも思っていない。息子の傭平(23歳)は現在大学4年生であるが就職活動はうまくいっていないようだ。就職浪人を決めた傭平は年末年始を実家で過ごし、酪農業を継ぐと言い出した。それは就職からの逃げでは無いのかと祐弥と妻の綾乃は考えてしまうが・・

「若女将になりたい!」…トランスジェンダー(MtF)の範之(27)は、実家の老舗旅館に戻って仲居の修業中。しかし女性の格好をする範之を、母である女将がなかなか認めてくれない。それでも一応、裏方として働くことは認めてもらえたが、女将がマルチタスク制を導入してから職場の雰囲気が悪くなっていく。範之は女性従業員たちと共闘してマルチタスク制に一穴を投じる。

「サラリーマンの父と娘」…山田健一は娘の美咲がまっすぐ家にかえらないことにある日気づき、母親つまり妻の文子に聞いてみるが妻はなんとも思っていないようだ。直接コミュニケーションをとろうと日本ハムファイターズの試合見物に誘うが、球場に行くと健一は美咲は仲間と一緒に応援を始めその熱狂ぶりに驚く。やがて、健一も女子会の一員となって熱心なファンとなっていく。

家業を継ぐというよりは「思い」を受け継いでいくという感じであった。
(2021年9月3日読了)



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