読書日記

『せき越えぬ』 <旧>読書日記1557 

2024年02月23日 ナビトモブログ記事
テーマ:<旧>読書日記


西條奈加『せき越えぬ』新潮社(図書館)

図書館で見つけた本。著者は今年の2月に『心淋し川』で直木賞を取ったが、ようやくという感じがする。多数の本を書いているが、案外にシリーズものは少なく単発の本が多い。それ故にであろうか、20冊ほど読む内に題名を見ただけでは既読の本か未読の本か判らなくなることも多い。

さて、本書。文芸誌の「小説新潮」に連載された「せき越えぬ」「 氷目付」「 涼暮れ撫子」「 相撲始末」「 瓦の州」「 関を越える者」という6篇をまとめて単行本化したもの。

主人公は武藤一之介(タケトウ イチノスケ)は27歳。小田原藩士で父の早隠居により先手組方の役目を引き継いだ。幼少5歳の時に剣術道場で出逢った武藤一之介と騎山市之介。紛らわしい「いちのすけ」に師範が付けたのは「武一(ブイチ)」「騎市(キイチ)」の呼び名。四人扶持の武藤家と知行千石・藩の要職担う騎山家の身分家柄超えた友としての絆がある。

小田原藩大久保家は11万石余りで老中も務める家柄で箱根の関が領内にある。箱根関は本来幕府による直轄機関であるが、箱根の関をはさんで両側とも小田原藩の領地でもあることなどから大久保家が代官を出す。この箱根の関を舞台として話が綴られる。

越すか、越さぬか――。ここは人生の峠を迎えた者に決断を迫る場所。東海道・箱根の関所には、今日も切実な事情を抱えた旅人がやって来る。西国へ帰る訳ありげな兄妹、江戸から夜逃げしてきた臨月の女、そして命を賭して一人の男にこの国の未来を託そうとする人々――黄昏を迎えた江戸の世で、若い関守の目に映る究極の人間ドラマ。さらに彼自身が迎える最大の岐路を鮮やかに描き出す骨太な時代小説。というのが惹句である。

始めの4篇は武一が犯した失態とそれに絡んで箱根の関の役人になること、そして惹句通りの往来人物のはなしであるが、後の2篇で調子が変わる。シーボルト事件との絡みで騎市が江戸に住む学問の師を助けようとする話となる。この話は少し重いが、全体として軽い感じで話は進み、借りて来たその日のうちに本書を読み終えた。

蛇足であるが、本書の題の越えぬの「ぬ」は、夏は来(キ)ぬの「ぬ」と同じ用法で「否定」では無く「完了」の意味を表す。
(2021年8月24日読了)



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