読書日記

『わかれ縁』 <旧>読書日記1554 

2024年02月14日 ナビトモブログ記事
テーマ:<旧>読書日記


西條奈加『わかれ縁』文藝春秋(図書館)

江戸時代には公事宿というものがあった。公事(訴訟ごと)を起こす場合、訴えは奉行に対して起こすのであるが、訴えを起こしたあとの裁判は(多くは)江戸で行われ、村に住む者たちは江戸に長逗留しなければならなかった。その時に公事人たちが滞在するための宿が公事宿である。また、訴えるための手続きも面倒であり、役所に提出する願書や証文、訴状など諸々の書類の作成・清書、手続きの代行や、弁護人的な役割もこなした。ことによっては訴える前に内済(当事者が互いに話し合って解決すること)で済ますこともあって、これも公事宿の仕事の内であった。公事宿を開くには幕府の公許が必要で、宿泊料(公定で一律248文/日)や食事などにも制限(各自の部屋では食べられず台所で食べる決まり)が加えられていた。

ということで、この公事宿、それも離婚専門の公事宿を舞台とした一連の短篇集である。

「わかれ縁」絵乃が親の反対を押し切って結婚した相手の富次郎はろくでなしであった。浮気は平気でするし、借金をこしらえてはその返済を絵乃に押しつける。そんな絵乃が途方に暮れたあげく出会ったのが公事宿狸穴の手代の椋郎であり、縁切り話をまとめて貰うことになる。が、その代金が高く、公事宿の主人桐の機転で公事宿の手代として雇われることになる。

「二三四の諍い」絵乃にとっては初めての事案で10代の兄妹が父母を離縁させてほしいと依頼に来る。白粉紅問屋の妻である母がが浪費癖がある上に、実家の借金取りが来るようになって、このままでは離縁するしかないと長男が考え、弟と妹は財産をできるだけもらって母について行こうという魂胆だった。絵乃たちは家族みんなの考えを聞き出し、、父母は離婚などする気がないことが判り、結局は忠働きとなってしまう。

「双方離縁」狸穴を辞めて武家に嫁いだ志賀が知り合いの離縁話を持ち込んでくる。夫の友人宅では嫁と姑の諍いが絶えず、悩んだ夫が離縁を求めているという話だ。実は志賀は解決策を持っているがそれを行うと自分の嫁ぎ先の立場が悪くなることを恐れている。で、絵乃は公事宿のものとして志賀の描いた絵図の実行役になる。絵乃たちは妻も母も離縁するという案を出して、嫁と姑は仲直りの方向に向かう。

「錦蔦」離縁は成立したが、妻が子供を連れて帰ってしまう。これが、一方は縫箔師、一方は截金師と双方の工芸職の家が、絵の才能のある孫の取り合いをする争いになってしまった。孫は縫箔も截金も興味があるが一番やりたいことは絵を描くこと。これを基にして絵乃たちはどちらの職人にもせず絵師としての将来を提案し、両家痛み分けで決着する。

「思案橋」11年前に絵乃と父を捨てて出て行った母が見つかった。この邂逅に二人は喜ぶが、深い話は出来ぬままに別れる。そこへ、絵乃の夫が刺されその夫の証言により絵乃は番屋に入れられそうになるが雇い主の桐の機転で年明けまでの4日間の猶予を得て、その間に真犯人を探すことになるが、そこへ自分が刺したと名乗り出たのは絵乃の母親であった。

「ふたたびの縁」前編の続き。同心に連れられて顔の確認の為につれてこられた鳩話した絵乃は真犯人は別にいると確信。程なく真犯人と犯行に至った理由は判る。自首しようとする犯人に絵乃は策を授けて、富次郎を罠に落とす。同時に母を縛っていた男と母の離縁も成功させ、二人は改めて共に暮らすことになる。

なお、公事宿の話ではあるが、公事の場面はなく、みな内済話ばかりであった。続編も充分にあり得る話の作りなので、数年のうちに出るかも知れない(本巻は2020年2月刊行)。
(2021年8月13日読了)



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