読書日記

『蜜のように甘く』 <旧>読書日記1548 

2024年01月31日 ナビトモブログ記事
テーマ:<旧>読書日記


イーディス・パールマン『蜜のように甘く』亜紀書房(図書館)

女性作家による「現代アメリカ文学」を読むのはルシア・ベルリンの『掃除婦のための手引き書』に次いで2冊目。出版社の惹句に寄れば「世界最高の短編作家」(ロンドン・タイムス)、「現存する最高のアメリカ作家による、最高傑作集」(ボストン・グローブ紙)などと言う言葉が踊る。

たった2冊しか読んでいないから(現代アメリカ文学そのものはSFを除けばあまり読んでいないこともあり)本書について、私は良作ではあるがそれほどの評価が妥当であるかどうかなんとも言えない。ただ、これが「最高」であるならば現代米文学の水準を問題にすべきかもしれない。

さて、著者の略歴によると1936年生まれ。1969年に最初の作品を発表しているが、最初の短篇集が発行されたのは27年後の1996年(著者60歳)だそうで、それから現在までにアメリカで6冊というから寡作な作家であるとも言えよう。日本での翻訳は本書が2冊目、それも全20篇の短篇集から10篇の抜粋であるからまだまだ知られていない作家である。

さて『蜜のように甘く』の原題はHanneydewであり、抜粋されたのは以下の10篇。削ぎ込まれた文で綴られる、誰にでも起こりうるのだけど秘密にしておきたいことが語られる。

・初心:足のケアサロンを営む女性が秘密を打ち明けられる。なお「初心(Tenderfoot)は店の名
・夢の子どもたち:幼い男の子たちの世話に雇われた女性が発見する箪笥の引き出しにある不気味な絵
・お城四号:3組のカップルが織りなす日々。病院に勤める不器用な局所麻酔医は余命数週間の患者と結婚する。
・石:都会に住む72歳の女性が毎年4日だけ滞在する田舎の甥の家に頼まれて3ヶ月滞在しての幸福
・従妹のジェイミー:高名な医師の秘書だったジェイミーは医師が腹上死したことを隠し通す。
・妖精パック:骨董商の女性レニーは「他の客の話をしない」と「客にアドバイスをしない」の2つの掟を守っている。オリヴィアから買った妖精パックのブロンズ像を白髪の紳士に売るが、二人を結ぶ為にレニーは掟を破る。
・打算:インテリカップルのひと夏きりのロマンスを、間近で観察する15歳の少女フリーダ。一夏に交わされた会話を残し、夏が終わると3人は別れる。
・帽子の手品:娘4人は一人の母親によって好ましい男性の名を書き帽子にいれてクジを引く。当たった男性と結婚して幸せになれという命令
・幸福の子孫:8歳の娘は父親に抱きしめて欲しくて犬から走って逃げる
・蜜のように甘く:女子校の校長と摂食障害の生徒の結びつきを描く

それぞれ20ページ弱の短篇だがいずれもほろ苦く同時に生き生きとしている。話のほとんどはメイドの様に第三者的な人物が存在することによって成り立っているようだ。最後に本の表紙には著者の横顔が印刷されており、その目は外界を見ていないように見える。

全くの蛇足であるが原題のHanneydewとは「(暑い時に植物の葉・茎から出る)甘い汁、(アブラムシ類が分泌する)みつ、甘露」のことであり、聖書に出てくるマナであって、本書では摂食障害の生徒が自分から求めて食べるものである。
(2021年8月4日読了)



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