読書日記

『安いニッポン』 読書日記1547 

2024年01月29日 ナビトモブログ記事
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中藤玲『安いニッポン』日経プレミアシリーズ

「価格」が示す停滞、という副題を持つ1冊で、もともとは日経新聞で同名のシリーズ記事として連載されたものを基板としている。

「はじめに」で示される著者の主張と問題意識は以下の通り。
「成長を続ける世界から日本は置き去りになり、人材やモノを買い負ける。皆が300円の牛丼に収束していると、いつの日か牛丼も食べられなくなってしまう。
「安さ」は生活者から見ると「生活しやすい」が、供給者の観点では収益が上がらない。すると賃金は据え置かれ、消費が動かず、需要が増えない悪循環に陥る。企業はなるべく値下げせずに最低限まで生産コストを下げたくなる。
果たしてこれで、世界の秩序をガラリと変えるようなイノベーションが生まれるだろうか」

第1章 ディズニーもダイソーも世界最安水準
第2章 年収1400万円は「低所得」?
第3章 「買われる」ニッポン
第4章 安いニッポンの将来

第1章から第3章までは、いかにニッポンの物価(賃金も含む)が安いかを示しているのだが・・特に第2章は題だけを見ればショッキングだが、これはサンフランシスコ市の話である。確かに米住宅都市開発省が最近発表した報告書でこのことは書かれているのであるが、それは住宅にかかる費用との兼ね合いであり、サンフランシスコの家賃は全米平均よりも75%も高い(BBCによる調査報告参照https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-44780348)
米政府は、全米レベルでの低所得者を、収入が同じ地域に住む同じ人数の家庭が得ている収入の中央値の8割以下だった場合と定義付けている。まあそれだけサンフランシスコ市では収入の高い人が集まっているわけだが、この議論は「木を見て森を見ず」の様なものではなかろうかと思う。他の例でも、インドで人材を採用できない、というのはインドのIT関連の最高学歴者を対象にした話で(正直、日本企業は大学側が指定する採用枠すら与えられていない)初任給1000万円が最低水準となっている。日本企業での給与体系ではこれは無理だろうなと思う。結局、一部分の世界に比べて日本が安い価格だけを切り取っての主張に見えてしまう。

ただ、第4章の問題提起は(一般的なデフレの弊害でもあるが)確かに考えねばならないことかもしれないと思った。しかし、もう一つの問題点は政府・日銀による円安志向政策は正しいのであろうか、という疑問も生じる。昨日(2021/08/28)現在で1ドル=110円というレベルであるけれど、これが1ドル=90円であれば世界との物価差は20%縮まる。円安はインバウンドにとっては「安いニッポン」となり、GDPの増大につながり人気は高まるが今はオーバーツーリズムの問題も考慮すべ気ではなかろうか。

それにしてもこの本を読んだためか、最近「安いニッポン」とか類似の言葉がやけに目に付くようになった。
(2021年8月3日読了)



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