読書日記

『わたしたちが光の速さで進めないなら』 読書日記312  

2023年12月29日 ナビトモブログ記事
テーマ:読書日記


キム・チョヨプ『わたしたちが光の速さで進めないなら』早川書房(図書館)

韓国発のSFで私がこの本を知ったのは2021年の初め頃であった。その時は図書館で検索しても未購入であったらしくヒットしなかった。さらに、街中へも出にくい時であったので、実物を見る機会はなく、メモの中にだけ残った。それが先日、図書館に行ったら目の前にあったので他に借りている本や予約している本も多かったがついつい借りてしまった。

本書は著者のデビュー作で「巡礼者たちはなぜ帰らない」「スペクトラム」「共生仮説」「私たちが光の速さで進めないなら」「感情の物性」「館内紛失」「私のスペースヒーローについて」の7篇の短篇からなる。
「巡礼者たちはなぜ帰らない」…とある星で故郷の星への巡礼は成人式(あるいは通過儀礼)を兼ねていた。その星へ巡礼に行ったもののうちには故郷の星に居着くものが必ずいるがそれは何故か。
「スペクトラム」…宇宙で行方不明になり、数十年ぶりに救出された叔母は知られざる宇宙人とファーストコンタクトをしたと主張する。その宇宙人は絵を描き続け、人間とのコミュニケーションは不可能であった。その中で育まれる信頼。
「共生仮説」…生まれたばかりの赤ん坊の頭脳の中には冷静な思考の主が住み着いていて、私たちの倫理を作っていく。そして私たちが共通して持つノスタルジアの感情はその生物たちの故郷の星の姿であった。
「私たちが光の速さで進めないなら」…打ち棄てられたはずの宇宙ステーションで、その老人はなぜ家族の星への船を待ち続けているのか。ワープ航法の成立とその進化による悲劇。
「感情の物性」…使用すると特定の感情を得ることが出来る物体化した感情が売れている。
「館内紛失」…死後、意識(マインド)だけを保管する図書館で存在したまま失われた母親のマインドと、それを探しだす娘の物語。
「私のスペースヒーローについて」…ワープ航法による宇宙旅行の肉体的な負担に耐えるため、サイボーグ化した叔母が初飛行の前日に逃亡する。

amazonにある読者による書評を読むと「あまりにレベルの低いSF」とか「SF導入にはよいのかも」などという偏見と誤読の塊が見られるけれど、私にはセンス・オブ・ワンダーに溢れた良品であった。
(2023年12月15日読了)



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