読書日記

『いのちがけ』 <旧>読書日記1530 

2023年12月18日 ナビトモブログ記事
テーマ:<旧>読書日記


砂原浩太朗『いのちがけ』講談社文庫

著者のデビュー作である。と言っても8篇の短篇からなる本書は構成から考えれば一気に書かれたものでは無く、真のデビュー作は本書の題にもなっていて冒頭の作品「いのちがけ」ではないかと思われる。なお、「いのちがけ」は第2回「決戦!小説大賞」で大賞を受賞しており、講談社の『決戦!桶狭間』に所収されている。

本書全体で、前田利家の忠臣・村井長頼が命を懸けて貫いた武士の本分を描いている。
村井長頼は加賀藩の祖・前田利家が流浪した若きころから大名になった後まで付き従った、股肱の臣であり、桶狭間、長篠、賤ヶ岳、……名だたる戦場を駆け抜け、利家の危難を幾度も救う。主君の肩越しに見た、信長、秀吉、家康ら天下人の姿。命懸けで忠義を貫き通し、江戸幕府の初期に徳川家の人実となった芳春院(前田利家の妻で、時の当主前田利長の母)に従って江戸に同行し、生涯を百万石の礎を築くことに尽くした男の姿を描いている。

壱之帖
「いのちがけ」…前田利家に従って三河にいた村井長頼は、主人が同朋衆を斬った訳を知る。
「泣いて候」…前田利家は桶狭間の戦いに参加し、帰参が叶うが、長頼は主人に叱られる。

弐之帖
「好かぬ奴」…利家の兄、利久に仕える奥村助右衛門家富が利家に仕える様になるいきさつ。
「不覚」…長篠の闘い。鳥居強右衛門の一幕と鉄砲二段打ち(三段ではない)を指揮する前田利家の不覚と深手を負った利家を助ける長頼。
「賤ヶ岳」…織田信長が死に、柴田勝家と羽柴秀吉が対立しての賤ヶ岳の戦いを描く。利家が秀吉側についた理由は?

参之帖
「影落つ海」…文禄の役の際、対立する家康と利家が手を組んで秀吉の朝鮮渡海を止める話。
「花隠れ」…秀吉も亡くなり、家康は野望をあらわにする。その抑えであった利家も最後の時を迎える。
「知るひともなし」…前田家謀反の心有り、と家康にとがめられた前田家は当主利長の母(つまり利家の妻まつ)を人質に差し出し、長頼も共に江戸に赴いて長頼はその地で死ぬ。

歴史の流れを追いつつ、例えば本能寺の変、関ヶ原の戦いなど前田家が直接関わらなかった事件は省略、陪臣としての村井長頼の目線が届く範囲と限っての創作法は見事である。次の著作も是非読んで見たい。
(2021年6月28日読了)



拍手する


コメントをするにはログインが必要です

PR







掲載されている画像

上部へ