読書日記

『この世にたやすい仕事はない』 読書日記306  

2023年12月17日 ナビトモブログ記事
テーマ:読書日記


津村紀久子『この世にたやすい仕事はない』日本経済新聞社出版社(図書館)

この初出は日本経済新聞電子版の連載小説だそうで、2015年に出版されている。2015年度芸術選奨新人賞文学部門受賞作。2017年4月に、NHKBSプレミアムで真野恵里菜主演によりテレビドラマ化された。

amazonの内容紹介は単行本と文庫本では内容が異なっていて、単行本版では誰かの書評を写したような感じで長く、詳しいのであるが、ここでは(より一般的と思われる)文庫本のものを写すと、

「一日コラーゲンの抽出を見守るような仕事はありますかね?」ストレスに耐えかね前職を去った私のふざけた質問に、職安の相談員は、ありますとメガネをキラリと光らせる。隠しカメラを使った小説家の監視、巡回バスのニッチなアナウンス原稿づくり、そして ……。社会という宇宙で心震わすマニアックな仕事を巡りつつ自分の居場所を探す、共感と感動のお仕事小説。芸術選奨新人賞受賞。

というもので、「みはりのしごと」「バスのアナウンスのしごと」「おかきの袋のしごと」「路地を訪ねるしごと」「大きな森の小屋での簡単なしごと」の5編で構成されている。まあ全編が「お仕事小説」であるが、いずれの仕事も実在するかどうか疑わしいけれども、なんとなくありそうでもある。

実在しなさそうな順に並べてみると
一番ありえないシチュエーションが「みはりのしごと」で、小部屋に置かれたモニターテレビで、在宅で仕事をしている山本山江という小説家を見張るというもの。ま、なぜ見張っているのかの理由付けは次第に明らかになるが、これを一つの話にまとめ上げる著者の力量は尋常では無いと感じた。

続いて不可思議なのは「大きな森の小屋での簡単なしごと」で「私」が紹介されたのは、大林大森林公園の奥にある小屋での事務仕事。大きな公園の中に一つポツンと離れている小屋でたった1人で行う事務仕事と言ってもチケットにミシン目をいれるという完全に暇つぶしである。それに飽きたら小屋の周辺を散歩して、何か見つけたら地図に書き入れるという仕事である。なんのために?と思うけれど・・

「路地を訪ねるしごと」はある地域を歩いて、貼らせて貰っているポスターを貼り替える仕事である。そのポスターを巡って「さびしくない」なる怪しげな団体の存在を知るのであるが、読者にはこの団体の目的や存在理由が判らないまま、どうやら仕事主とは対抗関係にあるらしいことが判る。何らかの宗教団体のような雰囲気を持つ「さびしくない」との訳の判らない抗争の話である。

以上に比べると、「バスのアナウンスのしごと」と「おかきの袋のしごと」はありそうな話である。
「バスのアナウンスのしごと」は某バス会社での業務。運行を受託している循環コミュニティバス「アホウドリ号」の広告アナウンスの内容を立案し、録音するというものだったが、上司からは「江里口という同僚の女性社員を見張ってくれ」という奇妙な注文をつけられる。
「おかきの袋のしごと」は創業40年の米菓の製造業者での業務。そこで作られているおかきの小袋に書かれている豆知識を前任者の代わりに担当してほしいというものだ。これは「私」に案外向いていたのであるが、社長が見ず知らずの年かさの女性を連れてきたことで状況が一変する。

登場人物が見るもの、聞くもの、食べるもの、好きな映画や音楽などのディテールを微に入り細に入り描写し、独特のおかしみに満ちた表現をする著者の作風がかなりの不条理さを乗り越えるのが面白い。
(2023年12月03日読了)



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