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敏洋’s 昭和の恋物語り

青春群像 ご め ん ね…… えそらごと(六) 

2023年12月17日 外部ブログ記事
テーマ:テーマ無し



 いつもならば「ごくろうさま!」と返ってくるはずが、きょうに限ってなにもない。鎌首をもたげてのぞき込んだ。一望できる仕切りのない作業場には、だれもいない。誰かしらが必ずいるのだが、どうしたことかきょうは無人だった。部屋はだだっ広い空間で、壁にはもろもろの治具がかけられている。ステンレス製の定規が長短あわせて五種類があり、ハサミも大きな裁ちばさみから小ばつみまで七種類がある。製図用の横幅のある平机には三種類のアイロンが置いてあり、使い道の分からぬ小物治具が何種類かある。
そして階段を上がりきった角に、彼の天敵であるパターンやらハトロン紙が置いてある。それらを車に積み込む折に、無造作に放り込んだところを主任に見とかめられた。破れやすい紙類の扱いについては、特にあつかいを注意するようにと、常々言われていた。それを怠ったと叱られたのだ。
 部長の受領サインを貰えば済むのだけれども、やはり待つことにした。岩田のことばが頭からはなれず、といって信じられないという気持ちもまた消えずにいた。きのうもおとといも顔を合わせているけれども、岩田の言うそぶりりは一度として見たことがない。好意を持たれていると感じたこともない。だけど…と思ってしまう自分が情けなくもあり可愛くも感じる。
(待ってないよな、彼なら……)

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