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『東京藝大 仏さま研究室』 <旧>読書日記1528 

2023年12月14日 ナビトモブログ記事
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樹原アンミツ『東京藝大 仏さま研究室』集英社文庫

書店でこの本を見た途端に買うことを決めた。そしてそれは裏切られなかった。
この本はカバーの折り返しによると、著者の「樹原アンミツ」は、三原光尋(映画監督)と安倍晶子(ライター)の合作ペンネーム。映画監督・三原光尋が企画、取材を担当し、ライター・安倍晶子(アンバイ アキコ)が小説化した。

東京藝術大学院美術研究科には文化財保存学専攻保存修復彫刻研究室は文化財の保存修復技術と研究にあたる専門家の養成をとおして、文化財の保存に寄与することを目的として設置されている。文化財としての彫刻はほとんどが仏像であり、この科は通称「仏さま研究室」と呼ばれている。なお研究室は実在のものであり、その活動は以下のURLで見ることができる。
https://www.hozonchoukoku-online2020.com/

さて、本書では4人の院生を主人公として研究家修士課程2年生が過ごす1年間を描く。課程を修了する為にはそれぞれが選んだ彫刻(仏像)をその仏像が作られた当時の手法で完全に再現する「模刻」をしなければならない。

プロローグ
第1章 三月 まひるは仏を探す
  手本となる仏像探しに苦労する川名まひる。福井県の漁村にある十一面観音と遭遇。
第2章 五月 シゲ、木に煩悶する
  材料となる材木を調達するために群馬県の木材店へ出掛けた波多野繁
第3章 九月 アイリと不動明王
  不動明王を思うように彫ることができず苦悩する弓削愛凜。落雷で気絶した中で、仏師と言葉を交わす。
第4章 十二月 ソウスケなんとか決断する
  失踪や優柔不断な行動の斎藤壮介は中国人の彼女を持つ。洪水で故郷の御神木が折れ、その御神木で仏像を作ると提案。
エピローグ

という4話の中で仏像にかける寺や檀家の思い、仏像製作の手順や材料などについても語られていき、仏像修復の概要や仏像制作史が読者にも判ってくる。

ちなみに仏像修復には三大原則があって、制作当初の状態をできるだけ維持、再現する「当初部最優先」、失われた部分を無理に補わない「現状維持」、そしてこのままでは自然分解してしまうような場合にのみ最低限の補強や接着処理をしても良いがその時に補修した部分を元の様に取り除ける様にしておくという「可逆性」という考え方がある。

また東京藝術大学が「芸」ではなくて「藝」の時を使う理由は「芸」は「くさぎる」「刈る」と言う意味に対し「藝」は「植える」「増やす」という意味で正反対の意味だからだというトリビアもあった。

そして、解説に曰く、「この物語は架空の美大ではなく東京藝大の保存修復彫刻研究室を描くことこそが目的であった」(by大矢博子)と言う言葉は納得がいくものであった。

最後に、著者の一人である安倍晶子さんは2020年11月12日に亡くなったそうである。
(2021年6月26日読了)



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