読書日記

『ぼくのミステリな日常』 <旧>読書日記1518 

2023年11月24日 ナビトモブログ記事
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若竹七海『ぼくのミステリな日常』創元推理文庫

本書を読み終えて奥付を見て驚いた。なんと1996年初版(単行本は1991年初版)であり、私の読んだものは2020年5月の第19版。作者は若い女性だと感じて新人作家だと思っていたが四半世紀前の本であった・・まあ、作者の処女作でもあるし、その時には確かに当てはまっているのだが。

建設会社で社内誌が創刊され、その編集の仕事を任された私(若竹七海)。小説も連載しろという無理難題に大学の先輩に泣きついたところ匿名作家を紹介され、1年間計12の小説を掲載する、という体裁をとった短篇集。

「桜嫌い」「鬼」「あっという間に」「箱の虫」「消滅する希望」「吉祥菓夢」「ラビット・ダンス・イン・オータム」「写し絵の景色」「内気なクリスマス・ケーキ」「お正月探偵」「バレンタイン・バレンタイン」「吉凶春神籤」の12篇に「ちょっと長めの編集後記」が付き、それを前書き的な「配達された三通の手紙」と後書き的な「配達された最後の手紙」ではさんでいる。

また各篇の冒頭に社内誌の目次が載っているのであるが、これが凝っていて、第3号で人事課長補佐の小高節子氏が「提言・苦言・言わせて貰います」というのを書いている(題名だけだからもちろん内容は分からない)のに対し、第4号で情報処理課の近松精次郎氏が「小高女史への返信」を書き、さらに第5号で小高氏が「「小高女史への返信」の返信」を書いていたりする。その他、訪問連載「支店事務局紹介」によって全国規模の会社であるとか、「社内倶楽部への御招待」で各種趣味サークルを列挙したり、この目次部分だけでも楽しめる。

解説の逢坂剛は「ぜひ本文よりも先に読んで欲しい解説」を書き、本書出版前に本書のゲラを読んだいきさつとその結果が書かれている。

曰く「わたしが若いころに書いたかもしれないような、少なくとも書きたかったであろうような、そういう類の小説であった」

12篇の短篇は「日常の謎」的なものである。各篇はばらばらであるがこれが最後の「ちょっと長めの編集後記」によって、一覧性が得られ全体が一気に長篇となる。この構成を思いつき実現した著者には恐れ入るしか無い。この作者の別の作品が読みたくなったけれども、図書館から予約した資料の準備ができましたというメールが相次ぎ、新たに書店で探す余裕が無いのが現状である。
(2021年6月3日読了)



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