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読書日記
『夢見る帝国図書館』 読書日記276
2023年10月18日
テーマ:読書日記
中島京子『夢見る帝国図書館』文春文庫
たまたまではあるが「帝国図書館」という文字が題名に入った本2冊をほぼ同時に知り、どちらも読んで見たいと思った。そのうちの一冊が本書であり、もう一冊(*)は新書であって書店で探すがまだ実物を見ていない。
「図書館が主人公の小説を書いてみるっていうのはどう?」
作家の〈わたし〉は年上の友人・喜和子さんにそう提案され、帝国図書館の歴史をひもとく小説を書き始める。もし、図書館に心があったなら――資金難に悩まされながら必至に蔵書を増やし守ろうとする司書たち(のちに永井荷風の父となる久一郎もその一人)の悪戦苦闘を、読書に通ってくる樋口一葉の可憐な佇まいを、友との決別の場に図書館を選んだ宮沢賢治の哀しみを、関東大震災を、避けがたく迫ってくる戦争の気配を、どう見守ってきたのか。
日本で最初の図書館をめぐるエピソードを綴るいっぽう、わたしは、敗戦直後に上野で子供時代を過ごし「図書館に住んでるみたいなもんだったんだから」と言う喜和子さんの人生に隠された秘密をたどってゆくことになる。
喜和子さんの「元愛人」だという怒りっぽくて涙もろい大学教授や、下宿人だった元藝大生、行きつけだった古本屋などと共に思い出を語り合い、喜和子さんが少女の頃に一度だけ読んで探していたという幻の絵本「としょかんのこじ」を探すうち、帝国図書館と喜和子さんの物語はわたしの中で分かち難く結びついていく……。
知的好奇心とユーモアと、何より本への愛情にあふれる、すべての本好きに贈る物語!
という内容案内ではわからないのが本書の構成で、主に図書館自身が人格を持つ様な視点から図書館の成立と苦難、そして図書館に通う人々への愛情を語るゴシック体活字で綴られる文(これが図書館が主人公の本である)とわたし(作家)と喜和子さんの交流を描きつつも喜和子さんの生涯を知ろうとする部分。こちらが量としては圧倒的に多いのであるが、喜和子さんの人となりはなんとなくであっても判るものの、喜和子さん自身については不明なまま終わる。
ゴシック体部分を詳しく学術的に書いたものがもう一冊の本であろうと推定出来るけれど、この本からだけでも帝国図書館の歩んだ苦難の道はある程度判る。東洋一の大図書館を目指したものの、結局は未完成のまま(建設費用は日露戦争、日中戦争、そして太平洋戦争を遂行する為の費用として流用されていく)第二次大戦後帝国図書館は国立図書館と改名され、さらにその役割は国立国会図書館に移って閉鎖される。
最後の部分で喜和子さんが求めていた「としょかんのこじ」の謎は解明される。
(2023年9月24日読了)
(*)長尾宗典『帝国図書館−−近代日本の「知」の物語』中公新書
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