読書日記

『三体』 読書日記1499 

2023年10月17日 ナビトモブログ記事
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劉慈欣『三体』早川書房(図書館)

近頃、中国製のSFが盛んである。私はSFが盛んになるためにはその国の国力と文化の充実が必要であるという仮説を持っている。言い換えると傑作SFが登場することはその国の繁栄を物語ると思っている。なにしろ、本書は2015年の長編小説部門でアジア人初のヒューゴー賞を獲得しているのであるから中国の繁栄を認めざるを得ない。

それはさておき、評判の高い本書をなぜ今まで読まなかったのかの理由はタイミングがすべてである。本書の名前が上って来たとき、まだ未知数のものに2000円を超える出費は大きく、図書館では予約者数が多くて金と時間のどちらを取るか迷ったあげく、時間を選んだからである。で、昨年4月から近所の図書館は改築のため(コロナ禍もあって)休館となったがそれが4月1日に再開された。それを機会に行ってみたところ、書架にこの本があるのを見つけたという次第である。

内容紹介では、物理学者の父を文化大革命で惨殺され、人類に絶望した中国人エリート女性科学者・葉文潔(イエ・ウェンジエ)。失意の日々を過ごす彼女は、ある日、巨大パラボラアンテナを備える謎めいた軍事基地にスカウトされる。そこでは、人類の運命を左右するかもしれないプロジェクトが、極秘裏に進行していた。
数十年後。ナノテク素材の研究者・汪E(ワン・ミャオ)は、ある会議に招集され、世界的な科学者が次々に自殺している事実を告げられる。その陰に見え隠れする学術団体〈科学フロンティア〉への潜入を引き受けた彼を、科学的にありえない怪現象〈ゴースト・カウントダウン〉が襲う。そして汪Eが入り込む、三つの太陽を持つ異星を舞台にしたVRゲーム『三体』の驚くべき真実とは?

とされているが、これはテーマで言えばファースト・コンタクト物に当たる。が、舞台は宇宙空間では無い。そして、この本は三部作の第1部でしかなく、第2巻にあたる作品は翻訳されているものの第3巻は未訳である。そして、本書でファーストコンタクトが起こるのは400年余り後とされている。だが、通信という形でのコンタクトは既に行われており、先方からは地球征服に向けての艦隊が既に発進していて(その艦隊の到着予定が400年余り先)、圧倒的な科学力の差がある相手にどう対峙するか・・

なお、蛇足であるが本書は1967年の文化大革命のエピソードから始まる。描写は軍と軍の対決であるかの様に描かれているが、内容的には私が知る文化大革命であり、現代中国でそれに言及することが許されるのかという驚きとともに、それは50年以上も前の歴史なんだとも思わされた。同時に、本作中で示される唯物史観もまだ中国では古びていない(あるいは政府の公式な見解か)ということも判った。
(2021年4月20日読了)



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