読書日記

『黄金比の縁』 読書日記274 

2023年10月14日 ナビトモブログ記事
テーマ:読書日記

石田夏穂『黄金比の縁』集英社(図書館)

週刊誌の書評で興味を持ち、図書館に予約した本。予約した後で気づいたことだが、作者は身体性をテーマに書かれた『ケチる貴方』の著者であった。その時にテーマとしての身体性は続けられるものであるかと疑問を呈したのであるが、一応ながら今回も身体性には触れている。

さて、内容紹介であるが
「会社の不利益になる人間を採る」
不当な辞令に憤る人事部採用チームの小野は、会社への密かな復讐を始める――。

(株)Kエンジニアリングの人事部で働く小野は、不当な辞令への恨みから、会社の不利益になる人間の採用を心に誓う。彼女が導き出した選考方法は、顔の縦と横の黄金比を満たす者を選ぶというものだった。自身が辿り着いた評価軸をもとに業務に邁進していくが、黄金比の「縁」が手繰り寄せたのは、会社の思わぬ真実だった……。

ボディ・ビルを描いた『我が友、スミス』で鮮烈なデビューを果たした著者が、本作では「就活」に隠された人間の本音を鋭く描く!

というもので、この「顔の縦と横の黄金比を採用基準とする」というのが先ほど「一応」という言葉をつけた由縁である。それよりも主人公の「人事の石田さん」…本作中で彼女の下の名は出て来ない。あくまで名字だけ…の思考の過程が面白い。

自分が花形のプロセス部から人事部に所属替えになった時、上司は「会社の不利益になる人間はウチの部署(プロセス部)には置けない」という言葉に反発→会社の不利益になる人間の採用を誓う→会社にとっての不利益とはせっかく育てた社員が上昇志向で会社を辞めること→その様な人間は優秀な事が多い→そして、顔の縦横比が黄金比(1:1.618)近いほど優秀である場合が多い→そのような人間を採用しないではなく、積極的に採用すれば後々のダメージは大きくなる。という思考過程を経て彼女は(就活生採用の一次面接を委されて居るのであるが)他の要素は一切省みずただ、顔の縦横比だけで採否を決めている。

で、この話の表面には出て来ないことであるが、「顔の縦横比=黄金比」というのは実は美男美女の条件でもある。つまり、彼女の判断は結局、顔の良し悪しで決めるのと同じである。言い換えるとこの話は数字を表面に出してのルッキズム批判に対する批判でもある。

もちろん、会社が新入社員の採用に当たって、人が人を判定することの難しさと良し悪しも書かれている。と言うか、人事の小野さんはかなり優秀な人であり、実は会社に無くてはならない人財でもあることはこの本を読めば判るけれども「女の直観力」と賞される彼女の判断方針がいとも単純な原則であることはかなり皮肉なことである。

身体性という言葉を外せば、意外なほどうまい作家であった。図書館に新しい本が入っていたので早速予約したらNo1でありすぐ借りられた本であった。
(2023年9月20日読了)



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