読書日記

『跳ぶ男』 <旧>読書日記1489 

2023年09月27日 ナビトモブログ記事
テーマ:<旧>読書日記


青山文平『跳ぶ男』文藝春秋(図書館)

人が死んでもまともな墓参りも出来ない藩。それほどに貧しい藩であるがそれでも維持しているのがお道具役2家。江戸期の大名相互の社交に能は欠かせぬものであり、それ故に藤戸藩はお道具役と言う名目で能役者を2家抱えている。その1家の岩船保は秀才の誉れ高く、藩の将来を担う若者として期待されていた。もう1家の跡取りであった屋島剛は父が再婚して、後妻に男子が生まれたことで嫡男の位置を追われ、それでも保の助けを得て秘かに能を学ぼうとしている。

剛の目を通して保つの活躍を描くのかと思うと、序盤であっさり保は罪を得て死ぬ。剛は一人での練習中に怪我をして人事不省となるが目覚めると、急逝した同い年の藩主の身代わりとして江戸に向かう話に化けている。江戸城では末座に近い藤戸藩主は公方(将軍)に目通りしただけで死んだが若すぎて急養子をもらい受けることも出来ない。そこで急養子が認められる年齢の17歳まで剛を武井甲斐守景通として通用させようとするのである。しかも、能の名手として名高かった先々代の跡を惹いているかも知れぬという諸大名の期待の中で・・剛はその期待に応えて諸大名から招聘され、能を舞うがその舞いは神がかったものとされる。

そうした中で剛は「人がまともな墓参りが出来る国」とするために「思い切ったこと」をする。
ストーリーは単純と言えば単純、それは無理筋と言えば無理筋な話なのである。

が、これは能の話であった。能の神髄を語ろうとする話であり、その演目の解説であった。剛が本篇中で舞うのは「養老」小書き、「東北」「百萬」「井筒」「鵺(ヌエ)」の5番。どのような話であるか、その舞いについても演じる者の心持ちについても、詳細な説明が本篇で語られる。この部分をどう読むかで読者は試されると言うか、道が別れると思う。私は一日で読んだ。
(2021年3月31日読了)



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