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読書日記
『我、過てり』 <旧>読書日記1484
2023年09月17日
テーマ:<旧>読書日記
仁木英之『我、過てり』角川春樹事務所(図書館)
著者は『僕僕先生』シリーズなど中国を題材にしたファンタジーでデビューしたが、最近は日本の戦国時代を舞台にする作品を書く様になって居る。本書は書き下ろし作品で、村上義清、伊達政宗、岩見重太郎、立花宗茂の四人をとりあげているが名が知られているのは伊達政宗ぐらいのものであろう。岩見重太郎と言えば私は講談で取り上げられる人、というぐらいしか知らない。
惹句に寄れば「強大な敵を前に、一度は勝利を掴んだはずの彼らは何を過ったのか――。
しかし同時にそれは、しくじりから教訓を得た彼らの再起への道程でもあった。」ということであるが・・
・「天敵」対武田信玄――村上義清
本書では村上義清の過ちは「奪いすぎずに守ろうとしたが、果てしなく奪って己の力にするお前(武田信玄)に敗れた」とされているが、村上氏は鎌倉時代には御家人であり北信濃に根拠を置いており、戦国期に急速に勢力を伸ばした戦国大名でもある。その点では武田氏とも共通するものがある。義清が戦場で戦えば勝つが戦い以前の調略により家臣からの信を失い、結局は上杉謙信の客将となったのは時代を見る目の問題かもしれない。
・「独眼竜点睛を欠く」対豊臣秀吉――伊達政宗
東北には東北のやり方がある、とばかりに秀吉の「惣無事令」を軽視したことが過ちとされているが、それは薩摩の島津氏や四国の長宗我部氏などと同様に中央の動静を掴みきれなかった地方政権に共通する問題でもあろう。
・「土竜の剣」対大坂の陣――薄田兼相(岩見重太郎と同一人物とされている)
小早川隆景の剣術指南役石見重左衛門の次男である岩見重太郎という豪傑が諸国を漫遊しながら各地で狒々や大蛇を退治し、父の仇を宮津の天橋立で討ったという伝説は講談で取り上げられ、昭和のころにはそれなりに知名度があったのであるが、他の三人と比べると戦国武将というにはやや小粒である。父の教えに背き、人前で剣技を振るうことに快感を覚えるようになったのが過ち、とされるが薄田兼相として豊臣秀吉や秀頼に仕えたのは精一杯のところだったかもしれない。
・「撓まず屈せず」対徳川家康――立花宗茂
戦国末期の北九州は大友氏、大内氏などの諸勢力が入り乱れ立花氏も名門であったが、大友氏の武将戸次鑑連(立花道雪)によって滅ぼされ、名跡は戸次鑑連(立花道雪)に受け継がれた。大友氏の武将の一人である吉弘鎮理(のちの高橋紹運)の長男が、宗茂の娘ァ千代と結婚して婿養子となり家督を継いだのが宗茂である。宗茂は大友氏から推薦され秀吉の直属武将となり、島津討伐などに活躍。文禄・慶長の役でも先鋒として朝鮮で活躍。秀吉没後の関ヶ原の戦いでは大坂方として参戦したが、これが「過ち」とされる。関ヶ原後は柳川城に籠城しようとするが、黒田如水・加藤清正の説得により降伏開城して浪人する。江戸幕府開設後は家康・秀忠に仕えて大名に復帰、1620年に旧領筑後柳川を与えられた。これは関ヶ原西軍に属して、戦後改易されたものの中で唯一の復活である。
「過ち」とは言え、村上義清は大名では無くなったものの上杉家の家臣として生き延び、伊達氏と立花氏は現在でも旧大名家として存続しているのであるから(本人の意識としてはともかく)致命的な過ちは一人だけ毛色の違う石見重太郎だけでは無いだろうか。
(2021年3月14日読了)
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