読書日記

『とうざい』 読書日記258 

2023年09月12日 ナビトモブログ記事
テーマ:読書日記


田牧大和『とうざい』講談社(図書館)

『盗人(ヌスット)』とともに借りた一冊。『盗人(ヌスット)』が暗い印象に対して、こちらは芸道小説に近い娯楽作品で軽く読める。

柄は大きいが気は小さい、若き紋下太夫の竹本雲雀太夫。二枚目役者も裸足で逃げ出す色男、「氷の八十次」こと人形遣いの吉田八十次郎。江戸で流行りの人形浄瑠璃、木挽町は松輪座に、今日も舞い込む難事件。

人形浄瑠璃に人生をかける男たち。とびきりの「芸」で綴る、笑いと涙のお江戸文楽ミステリー!

というが、ミステリー要素は薄い。舞台は江戸の人形浄瑠璃小屋。そこに曰くありげな幼子を連れた1人のご隠居風がやって来た。はて、何のために隠居と幼子は江戸にやってきたのか?というのがそれだが、一応本編全体を通しての謎である。まあ、その幼子を藩主の落とし胤と判じた大名の高木家とのいざこざも絡まって話は大団円に至る。

主人公は竹本雲雀太夫。形はでかいが気が小さく、才能を見込まれて太夫を張っているが師匠がいなくなって以来、頼るものが無く途方に暮れている。その雲雀の芸に向かう姿勢と覚悟が定まっていく過程が話の大筋である。

本書にも出てくるが、人形浄瑠璃は見るもので無く、聴くものだそうだが、私は残念なことに見たことも聴いたこともない。その意味で任侠浄瑠璃は太夫・三味線・人形が一体となった総合芸術だそうだが、さらに芝居の中で主人公役割の人形は、頭と右手を遣う「主遣い」と、左手を遣う「左遣い」、足を動かす「足遣い」の3人が、息を合わせて一つの人形を操るという3人遣いなのでここでも息の合った演技を見られるらしい。

さらに座元の役割や人形を作る人形師や人形の衣装を作る人など、人形浄瑠璃をとりまく人々の紹介もあり、本書は一種の入門書的な役割を果たすであろう。

最後に蛇足ながら、三浦しをんの「仏果を得ず」も人形浄瑠璃を扱った作品だそうで読みたい本のリストに並ぶことになった。
(2023年8月28日読了)



拍手する


コメントをするにはログインが必要です

PR







掲載されている画像

上部へ