読書日記

『ムラブリ』 読書日記228 

2023年07月12日 ナビトモブログ記事
テーマ:読書日記


伊藤雄馬『ムラブリ』集英社インターナショナル(図書館)

amazonによる内容紹介(長いです)
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就活から逃げ出した言語学徒の青年は、美しい言語を話す少数民族・ムラブリと出会った。文字のないムラブリ語を研究し、自由を愛するムラブリと暮らすうち、日本で培った常識は剥がれ、身体感覚までもが変わっていく……。
言葉とはなにか? そして幸福、自由とはなにか? ムラブリ語研究をとおしてたどり着いた答えとは……?
人間と言葉の新たな可能性を拓く、斬新極まる言語学ノンフィクション。

★高野秀行(ノンフィクション作家、『語学の天才まで1億光年』著者)
「不思議な本。ただ面白いだけでなく、別の世界にトリップしたような感覚に襲われる。」

★川添愛(作家・言語学者、『言語学バーリ・トゥード』著者)
「生きる力を削がれた現代人のために、言語学者に何ができるのか。その答えがここにある。」

【ムラブリとは】
タイやラオスの山岳地帯に暮らす少数民族。人口は500名前後と推測される。
「ムラ」は「人」、「ブリ」は「森」を指すため、「森の人」を意味する。タイ国内では「黄色い葉の精霊」とも呼ばれる。
かつては森のなかで狩猟採集をしながら遊動生活をしていたが、定住化が進んでいる。
ムラブリ語には文字がなく、話者数の減少にともない、消滅の危機にある「危機言語」に指定されている。言語学的に希少な特徴が複数確認されている。

【ムラブリ(語)の不思議】
・あいさつがない?
・「上」は悪く、「下」は良い?
・暦も年齢もない?
・過去と未来が一緒?
・意図的に方言をつくった?
・数を数えるのは宴会芸? etc……

【内容の一部抜粋】
・初調査は突然の「帰れ」で終了
・お金がなさすぎて、ムラブリにおごってもらう
・5年かけて、ムラブリの「家族」になる
・人食い伝説によって分断されたムラブリのグループに100年越しに再会してもらい、その様子を映画にする
・ムラブリ語を話せるようになったことで、身体もムラブリ化していく
・日本でムラブリのように暮らしてみる etc……

【著者略歴】
伊藤雄馬(いとう・ゆうま)
言語学者、横浜市立大学客員研究員。
1986年、島根県生まれ。2010年、富山大学人文学部卒業。2016年、京都大学大学院文学研究科研究指導認定退学。日本学術振興会特別研究員(PD)、富山国際大学現代社会学部講師、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所共同研究員などを経て、2020年より独立研究に入る。
学部生時代からタイ・ラオスを中心に言語文化を調査研究している。ムラブリ語が母語の次に得意。
2022年公開のドキュメンタリー映画『森のムラブリ』(監督:金子遊)に出演し、現地コーディネーター、字幕翻訳を担当。本作が初の著書。
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ということでこの案内に付け加えることは無いように思える。私自身も楽しく読んだ。そして、著者とこの本は「言語は世界観を作り上げる」ということの判りやすい実例で有るとも言える。けれどもある意味で豊かな「ムラブリの森」が無ければムラブリの生活が成り立たないことも確かであろう。

消滅危機言語とは言い換えればその言語の話者が減少しているということであり、その「世界観」が消滅するかも知れないという危機である。だが、その住む世界が成り立たないのであれば消滅するのも当然かもしれない。平行して考えると消滅危機にあるのは動物や植物も同じである。動物の場合には全世界で協力し合い、現在は動物園という特殊な環境の中で種の維持を図っている。ムラブリ語を維持するということはこれと同じことではないか。それは人権侵害にはならないのか?という一種の矛盾した感慨を持った。
(2023年6月26日読了)



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