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『停電の夜に』 <旧>読書日記1401 

2023年06月29日 ナビトモブログ記事
テーマ:<旧>読書日記

ジュンパ・ラヒリ(小川高義訳)『停電の夜に』新潮社(図書館)

著者のジュンパ・ラヒリは1967年ロンドン生れ。両親ともカルカッタ出身のベンガル人。幼少時に渡米し、アメリカのロードアイランド州で成長する。’99年、「病気の通訳」がO・ヘンリー賞受賞。同作収録の短編集『停電の夜に』でPEN/ヘミングウェイ賞、ニューヨーカー新人賞ほかを独占し、鮮列なデビューを飾る。2000年4月には、新人作家としてはきわめて異例ながらピュリツァー賞を受賞し、一躍全米の注目を集めた。

本書は9編の短編で構成されている。

「停電の夜に」…毎夜1時間の停電の夜に、ロウソクの灯りのもとで隠し事を打ち明けあう若夫婦。
「ピルサダさんが食事に来たころ」…ベンガル出身のビルサダさんが連日に近くやってきて夕食を食べる。ベンガルではおりしも(パキスタンからの)独立戦争が勃発していて、遠く離れた家族の無事を祈るビルサダさんの様子をその家の娘の視点で語る話。
「病気の通訳」…カパーシーはガイド兼運転手、本業は病人に付き添いその訴えを医者に通訳すること。ある日、夫婦と子供2人のアメリカ人家族を遺跡に案内するが、夫人は夫にも打ち明けなかった話をカパーシーにする。
「本物の門番」…階段掃除のプーリー・マーは住人でも無いのにアパートの門内で寝、暮らしている。その存在はまるでアパートの門番の様であったが、アパートでは富裕層のダリル夫妻が旅行に出かけて不在となるとアパート内の秩序は乱れ、プーリー・マーは暮らしにくくなる。その上、プーリー・マーが不在の時にアパートに泥棒が入り、住人は本物の門番を雇うとしてマーを追い出してしまう。
「セクシー」…ミランダはふとしたことから妻がいる男とつき合うことになる。男は妻がインドに帰郷中であることを良いことにしてミランダの家に入り浸り、妻が帰米してからは日曜毎に逢瀬を重ねる。それがミランダの同僚であるラクシュミの子供を一日預かることになりそれをきっかけとしてミランダは男と別れる。
「セン夫人の家」…母子家庭の為、インドからやってきて、車の運転が出来ないセン夫人の家で子守りをしてもらう少年のエリオット。エリオットの視点から米国に住むインド人夫婦の生活が描かれる。
「神の恵みの家」…結婚して転居した家にはキリスト教に関係するものがあちこちにあって、妻はそれを飾り立てる。夫はそれを快く思わないが、転居祝いの場では祝い客の人気をそれらの飾り物と妻が独占するというインド人夫婦の話。
「ビビ・ハルダーの治療」…突然高熱を発して倒れるという病気を持つ女性ビビは幼い頃両親に死に別れ、病気を治すには結婚して子供を産むしか無いと思い定めている。ビビはその仕事を手伝う叔父夫婦と近在の人々の好意に見守られてきたが、その叔母が妊娠して子供ができると疎まれてしまう。叔母夫婦は近所の人たちから見捨てられ転居するがビビは一人残され、誰とも知らぬ男の子供を産む。
「三度目で最後の大陸」…インドで生まれ、イギリスで学び、アメリカの大学図書館に就職した男はインドで結婚した妻を待つ間の6週間、高齢の女性の家に下宿。やってきた妻とはなかなかなじめないが、夫婦で下宿していた家を訪れたことをきっかけとして打ち解ける。

この様なインド系の人が英語で書く文学をインド系英文学というらしい。その視点は多様であり一定しない。原著の題にもなっている「病気の通訳」と「三度目で最後の大陸」が良作で、また「神の恵みの家」は夫の視点で描かれているだけに面白かった。
(2020年12月11日読了)



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