読書日記

『忘らるる物語』 読書日記219 

2023年06月26日 ナビトモブログ記事
テーマ:読書日記

高殿円『忘らるる物語』KADOKAWA(図書館)

ファンタジーであった。著者は、ふーん、こんな風な物語も書くのかと感じた1冊。

広告文に曰く
男が女を犯せぬ国があるという。(*)

金出づる国、燦という大国が支配する世界。貧しい土地で育ち、産んだばかりの子を奪われた環璃(ワリ)は、ひとり輿に乗せられ運ばれていた。「皇后星」に選ばれた環璃は、次の燦帝候補である四人の藩王のもとを巡って閨をともにすることになる。その道中で山賊に襲われたところを助けたのは、触れた男を一瞬で塵にする不思議な力を持った女性・チユギだった。その力に憧れながらも、帝までたどり着いて成し遂げるべきことを決意した環璃。運命に抗い、死と隣り合わせの旅を生き抜こうとするが――。彼女がたどり着いた、女が産み、男が支配する世界を変える「忘れられた物語」とは?


で、章分けは以下の通りで、第5章までが四つの藩王国での話。6章からが皇帝のおわす都での話。
第1章 皇后の星 / 第2章 烏爬(ウーファー)藩国 / 第3章 胡周(コジョン)藩国 / 第4章 戦士同胞(テレアニ) / 第5章 土兒九(ドルク)藩国 / 第6章 首里無(スリナム) / 第7章 極都(サーナリスヒーン) / 第8章 星天の石棺 / 第9章 忘れられた物語

大雑把に言うと、この本ではジェンダーの問題、支配と服従の歴史、が描写され(おそらくは著者自身が持つ?)産む性としての女という役割に対する怒りを強く感じる。「男が女を力で支配する。 最後は女が許し、包み込む。そんな物語はもうやめよう」という意図から書かれたものの様であるが、著者自身の問いかけに対する著者の答えは皮相的なものに思えた。

触れた男を一瞬で塵にする不思議な力を持つ女たちは帝国の「果ての果てのさらにまた果て」に女性だけの小さな国を作っているが、この能力を得る為にはおんなとして男に触れることが出来なくなるので、それなりの覚悟がいる。

環璃(ワリ)は最期にチユギからその力を受け継ぐのであるけれども、初めは愛する夫を殺され、子供を人質にとられ、「従わなければ子供を殺す」と脅されて「皇后星」となる事を主人公は受け入れるのである。

(すべての)男は女を力尽くで犯すものとする主人公の世界観には少々の矛盾がある。というのはその殺された夫との関係はどうだったのか?という疑問。これを美しいものと回想する主人公がすべての男に対する憎悪を燃やすのは何故か?「あの時はあの時、今は今で違う」とでも言うのであろうか・・つまり、この話全体を通じての世界観には偏頗なものだと思い浮かぶのは私が男だからであろうか?その一方で支配の構造に関する考え方はそれなりに正しいと思った。

(*)これは本書冒頭の一文でもある。
(2023年6月10日読了)



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