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『時のきざはし(現代中国SF傑作選)』 <旧>読書日記1393 

2023年06月13日 ナビトモブログ記事
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立原透耶編『時のきざはし(現代中国SF傑作選)』新紀元社(図書館)

経済の繁栄している国はSFが盛んになる、という仮説を立てたくなる。20世紀中頃からのアメリカ、1960年代の日本と同様に中国経済の発展がうかがえる。ということで編者(訳者でもある)の立原透耶による460ページを越える大冊の現代中国SF短編集である。

【収録作品】
「太陽に別れを告げる日」 江波(ジアン・ポー)大久保洋子 訳
「異域」 何夕(ホー・シー)及川茜 訳
「鯨座を見た人」 糖匪(タンフェイ*)根岸美聡 訳
「沈黙の音節」 昼温(ジョウ・ウェン*)浅田雅美 訳
「ハインリヒ・バナールの文学的肖像」 陸秋槎(ルー・チウチャー)大久保洋子 訳
「勝利のV」 陳楸帆(チェン・チウファン)根岸美聡 訳
「七重のSHELL」 王晋康(ワン・ジンカン)上原徳子 訳
「宇宙八景瘋者戯」 黄海(ホアン・ハイ)林久之 訳
「済南の大凧」 梁清散(リアン・チンサン)大恵和実 訳
「プラチナの結婚指輪」 凌晨(リン・チェン*)立原透耶 訳
「超過出産ゲリラ」 双翅目(シュアンチームー*)浅田雅美 訳
「地下鉄の驚くべき変容」 韓松(ハン・ソン)上原かおり 訳
「人骨笛」 吴霜(ウー・シュアン*)大恵和実 訳
「餓塔」 潘海天(バン・ハイティエン)梁淑a 訳
「ものがたるロボット」 飛氘(フェイダオ)立原透耶 訳
「落言」 靚霊(ジン・リン*)阿井幸作 訳
「時のきざはし」 滕野(トン・イエ)林久之 訳

内容も作風も異なっている作家が17人(名前の読みについている*は女性作家)。大冊であるために読み終えるのに5日間かかったが、始めの2作が好篇でそれに励まされて読了した。しかし、訳者によって巧拙があるのか、作風や内容の違いの為か私の好みのためか、正直に言えば、後半は意味が判らなく面白いと思えない作品もあった。私自身の年齢の問題かなぁ。

「太陽に別れを告げる日」2人1組で112隻の探索艇で宇宙に送り出された学生たちは母艦が爆発するという非常事態にに直面。それぞれの探索艇には冷凍睡眠装置が1台と宇宙服が1着。24時間分の酸素しかなく、主人公は相棒に冷凍睡眠装置を言葉巧みに譲り、探索艇の進路を火星に向け8年後には相棒が救われることを期待して、自分は宇宙服を着こんで探索艇を離れる。
「異域」300億人の人類全体の食料を生産する特種農場で異常が起こり、それを修正しようとする物語。探検班は異常な生物(=妖獣)に襲われ、自動農業機械機械もどんどん進歩している・・特種農場内では時間が早く進んでいることが判明し、主人公は人類を守るためにこの異域に残留する。
「鯨座を見た人」娘は夏休みの宿題のために父の作った観屏鏡で「鯨座」の観測記録を書く。パフォーマンスアーティストであった父は想像を超えた発明家でもあったけれどもある評論家によって生きている間は嘲られ、死後は崇められる。「沈黙の音節」音韻論に着目した異色の言語SF。一番発音しにくい単語を完全に発音すると・・。「ハインリヒ・バナールの文学的肖像」は疑似伝記であるが架空の人なのか実在であるのかなど私には不明で面白いとは思えなかった。「勝利のV」は仮想現実空間で行われるオリンピック、という5ページの短編。「七重のSHELL」も仮想現実もので、人がひとたびバーチャル世界に入ってしまうとシステムの外からの助けがなければ環境の審議を見分けることができないというテーゼを打ち破ろうとする主人公の陥った結末…現実をも信じられなくなってしまう。「宇宙八景瘋者戯」の作者は台湾出身。暗黒エネルギーを利用する宇宙船盤古号が遭難したらしく、それを念力で送られたナノロボット宇宙船が救う。「済南の大凧」はおよそ百年前の火薬庫爆発事故の謎を追ううち、その犯人と目された人物の知られざる科学業績を知るという話。「プラチナの結婚指輪」は結婚難から異星人の女性と結婚するという話で、これは現実の中国での男性の結婚難を背景としている。「超過出産ゲリラ」は地球に住み着いた異星人チョウチンクジラの話。「地下鉄の驚くべき変容」不条理ホラー。情景の不快さ、気持ち悪さが伝わってくるが説明は何も無い。「人骨笛」は分類すればタイムマシンと平行世界の話だが舞台は五胡十六国時代に異性から来た羽族と主人公の関わり。「餓塔」こちらもグロテスクな極限状況下の人間を描く。飢餓の描写が真に迫っているし、最後に神父が辿り着いた真相が無情にも消し去られるのも最悪。「ものがたるロボット」聞いたことのない話を好む王さまが作らせたロボットは「むかし・・」と話し出し「これがすべてでございます、陛下」という言葉で終える物語を語る。ある日、このロボットは話の途中で語るのを止めてしまうがその理由は「結末が2つあってどちらが良いか計算できない」であった。という二重の話。「落言」は飛行(宇宙)船が不時着した落現星の住民たちは空から落ちてくる落言石を体内に取り込むことで生活しているのであるが、ロードスという少女が彼らとコミュニケーションに成功し、エネルギー補充に成功する。「時のきざはし」は下ると過去に遡り、上ると未来へ行くという階段を発見した男女が共にあちこちの時を過ごしながら、男は過去へ進み知能も退化するが、女は途中から未来へと進む道を分けるという話。
(2020年11月21日読了)



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