読書日記

『奥方様は仕事人』 <旧>読書日記1392 

2023年06月11日 ナビトモブログ記事
テーマ:<旧>読書日記

六道慧『奥方様は仕事人』光文社文庫

著者は多作家であり、多くのシリーズものや単発物を書いているが私が読んだのは2005年から2011年にかけて出された「御算用日記」シリーズだけである。それが、さる9月に新刊と間違えて『天は長く』を久しぶりに読んだ(読書日記1371)。そして、所有している本を見返したところ本書を買ったまま(2011年10月に出版されていた)であることを発見し、次の日記になる『時のきざはし』を読みかけているにもかかわらずこちらを先に読んでしまった。

題名に使われている「仕事人」とは、1970年代半ばから『必殺仕置き人』1980年代には『必殺仕事人』シリーズが藤田まこと演じる中村主水を中心とする時代劇がTV放送されていたが、どうやら著者はそれをイメージしているらしい。後書きの冒頭に「女版、中村主水というのはどうだろう。これが閃いたのは3年ほど前でした」と種明かしを書いている。

八丁堀同心の妻、留以。婚家では、夫を献身的に支え、姑や小姑との折り合いに四苦八苦する愛らしい奥方様。だが、剣術小町と称されるほどの武芸の腕前を持ち、両親を殺めた夜盗への復讐心を静かに燃やし続ける別の顔も持っていた―。と言うのが裏表紙にある惹句であるが、その別の顔が仕事人という構想である。

読みやすいのでサクサク読んだけれど、読み終えてみて「なんだかなぁ」という感想である。冒頭に仕事人として仕事をする場面があり、一転して同心の妻としての表向きの姿に変わるところから始まるけれど、今回の話の中心は、留以が知り合った菩薩先生と慕われている女医者に、毒入りの薬を処方した嫌疑がかけられる。はたしてその真相は?というのであるが・・あれもこれもと詰め込みすぎて、話が表面的で上滑り。奥深さも無ければおしどり夫婦という触れ込みながら、夫婦の情愛が感じられる訳でも無い。

もう1つ、書き飛ばした様な感触もあり、編集者の手抜きなのか明白な誤りもあってシラケてしまう部分もあった(*)。

多分に「仕事人」という設定が邪魔をしているのではないだろうかと思わされるが、それでは話が成立しないというジレンマを著者は抱え込むことになったのではないだろうか。シリーズとして4冊ほど出ているようだが、続きを読みたいとは思わなかった。

(*)P224 会津藩を外様大名としているのは明白な誤り。親藩あるいは御一門である。その直前に徳川家に縁があると書いていながら、次の段落で「(会津藩は)外様大名ではあるが、押しも押されもせぬ名家であった」とはひどいものだ。
(2020年11月15日読了)



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