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読書日記
『負けるのは美しく』 読書日記211
2023年06月10日
テーマ:読書日記
児玉清『負けるのは美しく』集英社文庫
著者である児玉清(こだま きよし、1933年12月26日 - 2011年5月16日)は、日本の俳優、タレント、司会者、作家ということである。長く1975年から始まった「パネルクイズアタック25」という番組の司会を務めていたらしいが私は見ていない。年齢の差もあって知らない人である。それがこの本を買ったのは週刊新潮誌の書評と言うか案内に出ていたから。
広告文によると
名優・児玉清の回想記
名優、名司会者として親しまれる児玉清。おだやかな笑顔の下には、驚きの人生が。母の死がきっかけの映画界入り、日本映画全盛期の名優や俳優の逸話、そして長女の死…。珠玉エッセイ集。(解説/池内 紀)
裏表紙には
就職活動の一環としてなりゆきで受けた東宝映画のニューフェイス試験で、遅刻した上に水着を忘れ、パンツ姿で面接したが見事合格したこと。生来の天邪鬼が顔を出し、天下の黒澤明監督にたてついてしまった新人のころ。大スター三船敏郎をはじめとする数々の名優との思い出。運命の出会いと結婚、そして36歳という若さで逝った最愛の娘。読む人の心を静かにそっと揺さぶる感動のエッセイ。
と言う内容紹介。
しかし、宣伝には書いていないこともある。それは各節のはじめにある短い英文の引用。翻訳される前に読みたいという理由で多くの本を買ったそうだが、その引用の範囲の広さに驚く。
例えば第5章天国へ逝った娘の中の「パラシュートなしのサバイバル」という節の頭には
A woman is like a teabag. You never know how strong she is until she is in hot water.
Eleanor Roosevelt(F.Roosevelt大統領の妻で夫亡きあと、第1回国連総会のアメリカ代表団に選ばれ、世界人権宣言の起草を行う。なおかっこ内は私の注)
とある。芸能界一の読書家という評判もあり、のちには知性派のイメージをもたれたようだ。
冒頭の東宝映画のニューフェイス試験の様子が面白い。「どうせ入る気もないし」と終始リラックスしていた著者は、審査員から彼のO脚を指摘されると、すかさず「O脚とは忘れ去ることなり」と返して爆笑を生んだとか(かくて第一次面接を通過)。二次以降の面接で特技を聞かれ「何もありません」、では好きなことを言いなさいに「文楽が好きです」。
「おお、君は人形浄瑠璃をやるのかね?」に答えて「いや、大好きなのは落語の桂文楽師匠です」・・しばしの間があったあと、笑い声が審査員席からどっとあがった、とか。
なお、題名の由来は、映画俳優となったものの芽が出ず、テレビ界に移るが、人気女優の相手役としてよく出演したがそれは自分が<無味無臭>だからと自覚し挫折感が深まるうちに、いつしかたどり着いた境地が「負けるのは美しく」。負け方にこそ人間の心は現れる、と思うことで心が静まったという。
(2023年5月25日読了)
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