読書日記

『千両かざり』 <旧>読書日記1385 

2023年05月28日 ナビトモブログ記事
テーマ:<旧>読書日記

西條奈加『千両かざり』新潮文庫

本書は2009年に出版され、2011年の文庫化した『恋細工』を新装版として改題されたものという。幸い『恋細工』も読んでいなかったので二重に買うことは免れた。改題するにはそれなりの理由があるのであろうが、新刊と勘違いをさせるようなこのような商法はどうなんだろうか。

女細工師お凜という副題を持つ本書は4代続いた錺職の椋屋の跡継ぎを決める話である。お凜の曾祖父が始めた椋屋は代々春仙を名乗ってきた。技を男が継ぎ、家は代々女が伝えるという伝統の中でお凜は3代目春仙の娘で4代目の義妹である。4代目は28歳で跡を継いでからわずか6年で死にかけている。そうした中でお凜は4代目の指図で訳ありの時蔵を椋屋に迎える。謎の男・時蔵は、江戸では見られない平戸という技で簪をつくり、一門に波紋を呼ぶ。

4代目の死後、後見役の小間物問屋の生駒屋広左衛門によって遺言書が開かれ、その場にいた6人、職人頭の留五郎、のれん分けを許されて江戸を離れて店を構える信州上田の庄六、備前岡山の新兵衛、武蔵川越の音助の3人、そして旅修行からもどったばかりの伍一と時蔵の中から5代目を選ぶ。技・人柄・それに才のいずれにも優れた職人である。ただし、それを決めるのは3年後。それまでに各自は技を極めるべく修行し、5代目判定を実はそれなりの技量を持つが女であるために跡目を継げないお凜が行う。

留五郎は最年長であり、4代目よりも年上であったが技の独創性を求めるという気が薄く、逆に時蔵は職人というより芸術家であり、その技量は独自の高見にあるが、注文を受けて品を作るのは嫌だと言い、自分の好みのものを徹底して作ろうとするが、それでは職人としてはやっていけない。お凜は素直に時蔵の技を認め技を習うが他の店持ち3人はその技を盗もうともしない・・

生駒屋の総領で商い上手の伊左衛門、その妹で器量と感覚は江戸一のお千賀たちや奉行所同心の青木成之などの脇役と共にお凜の跡目選びが始まる。

時はあたかも天保の改革で贅沢品に対する取り締まりはきつく、生駒屋や品を納入する椋屋の商いは難渋する。そんな中で驚天動地の大注文をお千賀がもたらす。神田祭の山車飾りを金銀で作ろうという話である。贅沢品禁制の中でお咎め間違い無しの飾りをどうやって秘密を守りつつ材料を集め、仕上げるか。そして、お上の咎めをいなすにはどうすれば良いか。

千両飾りの山車はうまく出来るのか。時蔵とお凜の関係はどうなるのか。5代目を継ぐのは誰か。話の焦点はここに絞られるが・・

山車は見事に完成し、神田祭にも参加するがそれを咎めに来た南町奉行所との間のいざこざで時蔵は入牢し、しかも時蔵に恨みを持つもののために殺されてしまう。3年の時が過ぎ、4代目の新たに出て来た遺言により、お凜は5代目として指名されていたことを知るが、留五郎を5代目として指名し、お凜は時蔵の平戸を受け継ぐものとして、椋屋以外に平戸を習いたいと思うものが現れるのを待つのであった。
(2020年11月1日読了)



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